Wi-Fi の解説:320 MHz チャネルと 4096-QAM

カテゴリ
Wi-Fi
日付
2026年6月18日

6 GHz 帯での帯域幅が 2 倍になり、あらゆる信号に含まれるデータ量が増えることから、Wi-Fi 7 ではスループットと効率性が向上

文責:Alessia Autolitano、Andrea Pezzoli、および Roberto Ricci

注記:本記事は、Sisvel Technology 提供の「Wi-Fi Explained」シリーズの最新記事です。シリーズ全体は、

Wi-Fi 7 は、高解像度動画のストリーミングをはじめとする、大量に帯域幅を消費する通信を、多数のユーザーが同時に利用する環境に対応するために構築されました。その実現を支える重要な方法の 1 つが、Wi-Fi に割り当てられた最新の周波数帯域内でチャネル幅を広げることです。

この進化は、Wi-Fi 6E から採用された、6 GHz 帯の一部を Wi-Fi に開放するレギュレータの登場によって、可能になりました。Wi-Fi 7 規格の開発者は、この周波数帯のチャネル幅を 320 MHz としました。これは、Wi-Fi 6/Wi-Fi 6E で利用可能な最大チャネル幅の 2 倍に相当します。

この 320 MHz チャネルの実現は、規格の開発者にとって重要な課題でした。拡張された帯域幅と既存のプロトコルの制約との相互作用によって生じる新たな技術的問題に対処する必要があったためです。

320 MHz チャネル:車線を増やしてトラフィックの増加に対応

Wi-Fi で利用される周波数帯には、2.4 GHz、5 GHz、6 GHz があります。2020 年に Wi-Fi 6E が登場する前は、Wi-Fi デバイスでの使用が許可されていたのは 2.4 GHz と 5 GHz のみでした。2025 年に正式にリリースされた Wi-Fi 7 は、5 GHz および 6 GHz 周波数帯で 20/40/80/160 MHz、2.4 GHz 周波数帯で 20/40 MHz をサポートするだけでなく、6 GHz 周波数帯で最大チャネル帯域幅として 320 MHz をサポートします。[1]

320 MHz チャネルにより、Wi-Fi データはこれまでにない超高速で伝送することが可能になりました。この改善は、古くなった道路を新しい多車線の高速道路に置き換えるようなものです。Wi-Fi チャネルは道路の車線のようなものであり、車線が多いほど、干渉や速度低下(通信遅延)が生じることなく通行できます。同様に、320 MHz チャネルを備えた Wi-Fi 7 ルーターは、これまで以上に多くのデータを同時に処理できます。[2]

OFDMA(直交周波数分割多重アクセス)伝送では、320 MHz の PPDU を 1 人のユーザーに対して 4×996 トーンのリソースユニット(RU)で割り当てることも、2 人のユーザーにそれぞれ 2×996 トーンの RU で割り当てることもできます。あるいは、トラフィック状況に応じて他のさまざまな組み合わせを適用した別の構成で割り当てることもできます。[3]

引き続き高速道路の例えを用いると、2.4 GHz 帯が狭い片側車線の道路(低速で混雑しやすい)とするなら、5 GHz 帯は複数車線の高速道路(より高速だが速度制限がある)であり、6 GHz 帯は超広幅員の高速道路(高速で干渉も少ない)です。[2]

利用可能な 320 MHz チャネルの数は、帯域幅に関する国の規制により、地理的な制限を受けることになります。例えば、米国やカナダのように 6 GHz 帯で 1200 MHz の周波数幅が利用可能な地域では、320 MHz のチャネル幅を 3 本利用可能です。一方、欧州のように、利用可能な周波数帯域が 500 MHz に限られている地域では、図 1 を見ると容易にわかりますが、320 MHz 幅のチャネルは 1 つしかありません。[4]

Wi-Fi 7 channel width

図 1(出典

以前の記事で述べたように、チャネル幅が大きいほど干渉の可能性も高くなります。そのため、干渉を回避しながら利用可能な周波数帯域を最大限活用し、より安定した信頼性に優れた接続を確保するためには、Preamble Puncturing(Wi-Fi 6 ではオプションだったが、すべての Wi-Fi 7 製品で必須要件となっている技術)が不可欠です。

Figure 2: Preamble Puncturing

図 2(出典

超広幅員の高速道路の例えで言うなら、この機能により、1 車線が閉鎖されている場合でも、その車線のみを迂回して通行を継続できるようになります。後続の隣接するすべての車線を閉鎖する必要はありません。

実際にはどのようなメリットがあるのか

320 MHz 帯域幅は、主に家庭での利用が想定されています。一戸建て住宅の場合、隣接する住宅の数が比較的少なく、2 つの外壁から生じる減衰が、異なる住宅内にある機器の間で強力な RF 分離を生じさせる可能性が大きいと考えられます。したがって、各家庭は単一の 320 MHz チャネルに比較的クリーンにアクセスできる可能性が高く、その典型的なユースケースが、OFDMA を備えた複数のデバイスへのストリーミングビデオトラフィックの配信です。[3]

企業環境の場合、ノートパソコン、タブレット、IoT センサー、セキュリティカメラなど、数百台のコネクテッドデバイスを運用している企業は、ネットワークの通信混雑から解放されることになります。前述のように、320 MHz チャネルは複数の OFDMA 伝送に柔軟に割り当てることができます。例えば、必要に応じて、1 人のユーザーが膨大な 4×996 トーンのリソースユニットを取得することもできれば、2 人のユーザーがそれぞれ 2×996 トーンのリソースユニットを取得することも可能です。こうした柔軟なリソース管理により、ネットワークは利用状況に応じてリアルタイムで最適化され、通信効率を高めることができます。

4096-QAM:信号ごとに含まれるデータが増加

直交振幅変調(QAM)は、Wi-Fi ルーターがデジタルデータ(電子メールからビデオストリームに至るあらゆるものを構成する 1 と 0)を、アナログ無線信号に変換するために用いる手法です。

高次 QAM は Wi-Fi 7 の主要な技術的特徴の 1 つです。この技術を実現するには、送受信を担う信号処理全体にわたる高度化が必要でした。また、高次 QAM は他の機能と連携して動作すれば、Wi-Fi 6 規格よりもはるかに効率的な通信効率を実現します。

QAM の仕組み

Wi-Fi 規格で広く使用されている QAM は、デジタルパケットを、無線データ転送が可能になるアナログ信号へと変換します。具体的には、電波の位相と振幅を変化させることで、一回の送信により取り込まれるデータ量を増やし、周波数効率を向上させます。[6]

QAM は、正方形の格子の中に配置された一連の点として視覚化できます。デジタル通信データはバイナリであるため、格子内の点の数は通常 2 の累乗(2、4、8、16…)であり、累乗の数字はビットパーシンボル(bps)の数字に対応します。高次の点、例えば 256(= 28)QAM は、64(= 26)QAM のような低次の点よりも大きい値の BPS を送信できます。Wi-Fi 6 では、10 BPS に相当する 1024 QAM が最大値となります。[4]

Figure 3: QAM

図 3(出典

例えば、ある配達トラックが地方の果樹園から物流センターにりんごを運ぶとします。収穫したりんごすべてをより早く配送するには、1 台のトラックに積むリンゴの量を増やすというのが、1 つの方法です。[5]

4K QAM(4096 QAM)は、正方形に配置された 4096(= 212)の点を使用した QAM 変調であり、シンボルごとに 12 ビットを送信します。図 3 では、一例として 16 QAM を視覚化し、4096 QAM と比較しています。[9]

4K QAM では含まれるデータ量が増えるため、Wi-Fi 7 のデータレートは Wi-Fi 6 の 1024(= 210)QAM と比較して 20% 向上します。数多くのクライアントに安定したサービスを提供するうえで、この点は欠かせません。この性能向上により、高密度なネットワーク環境において高速かつ信頼性の高い Wi-Fi 接続を実現できます。

リンゴ運搬のトラックの例えに戻ると、4K QAM は、りんご箱の梱包材をコンパクトにしたようなものです。トラックの荷台容量は変わらなくても、新しい梱包方法のおかげでりんごがより効率的に梱包されているため、農場は配送ごとに運ぶりんごの量を増やすことができ、結果として収穫したりんごすべてがはるかに早く配送されます。[5]

Figure 4: Bits per symbol

図 4

シンボル当たりのビット数を大きくすると、代償として受信側の信号対雑音比(SNR)要件が増大することになります。この要件は、多くの場合、ビームフォーミング送信によって達成できます。[7]

ただし当然ながら、QAM の次数は「数字が大きければ大きいほど良い」というものではありません。信号対雑音比(SNR)が小さく、ノイズが多い環境の場合、受信側のシンボル復調が困難となり、エラーが生じやすくなります。そのため、このような「ノイズの多い」環境では、低次 QAM モードが唯一の選択肢です。

別の言い方をすれば、騒がしい環境で早口で話すと、ひとつひとつの単語が聞き取れなくなってしまうのと同じです。

6 GHz 帯、4096 QAM、320 MHz チャネル(160 MHz より増)、他の機能と連携した Preamble Puncturing を採用することで、Wi-Fi 7 は Wi-Fi 6 の 2.4 倍の通信速度向上を実現し、また、複数のデバイスが同時接続される環境においても、低遅延で安定した通信を提供します。

実際にはどのようなメリットがあるのか

4K-QAM では、データ伝送速度と周波数効率が向上します。これは、数多くのクライアントに安定したサービスを提供するうえで欠かせない重要な要素であり、高密度な利用環境でも高速かつ信頼性の高い Wi-Fi 接続を実現します。その結果、家庭では高画質な 4K/8K ビデオを快適に視聴したり、自宅からオンラインゲームをプレイしたりライブ配信を行ったりすることが可能になります。4K-QAM により、ストリーミングの性能ははるかに向上しました。Wi-Fi 7 対応の CPE やルーターは、従来の無指向性アンテナではなく、ビームフォーミング対応アンテナアレイを採用するなど、大幅に高度化しています。これは 4096-QAM が求める高い SNR(信号対雑音比)を確保するためです。こうした高度化した通信機器の普及により、ブロードバンド事業者や企業は、新たなサービスプランやビジネスモデルを提供できるようになりつつあります。

今後の展望

理論上は、QAM を 14 BPS(16K-QAM)に発展させることは可能ですが、Wi-Fi 研究者の間では、家庭やオフィス環境で必要となる SNR 要件が極めて高く、実用性は限定的であると考えています。代わりに焦点が当てられているのが、中間 MCS(変調符号化方式)という形で既存のレベルの間を半分だけ進めるという方法です。

MCS は、変調フォーマットと符号化レートの組み合わせを定義することで無線伝送のデータの符号化方法を設定し、それによって達成可能なデータレートを決定します。従来の Wi-Fi では、利用可能な MCS レベルの選択肢が比較的粗かったため、変動する信号環境において最適なレート適応に限りがあり、その結果、本来得られる性能を十分に引き出せない場合がありました。中間 MCS レベルを導入することで、より細かいレート適応が可能となり、移動中の利用や高密度の公共環境など、電波状況が頻繁に変化する環境でも、よりスムーズで安定した通信性能を実現できます。

次世代の変調技術:不等変調(UEQM)従来の MIMO システムでは、複数の空間ストリームの通信品質が異なっていても、最も条件の悪いストリームに合わせてすべての同じ変調レベルを使用することを余儀なくされます。UEQM ではこの制約を取り除き、各空間ストリームが個々の信号品質に基づいて変調を適応させることができるようになります。その結果、信号が不均一に伝搬される環境においても、高いスループットと耐障害性を実現できます。

Alessia Autolitano、Andrea Pezzoli、および Roberto Ricci は、イタリアのノーネ(トリノ)に拠点を置く Sisvel Technology の Wi-Fi 専門家です

参考文献:

1.[「An Introduction to Key Technologies of Wi-Fi 7」、Shengzhong Zhanga、Lei Yub、Yinqian Chengc 著]

2. [https://www.netgear.com/hub/network/wifi-7-320mhz-channels/]

3.[「Wi-Fi 7 In Depth: Your guide to mastering Wi-Fi 7, the 802.11be protocol, and their deployment」、A Henry, J.、A Gupta, B.、A Hart, B. 著、2024 年]

4. [https://documentation.meraki.com/MR/Wi-Fi_Basics_and_Best_Practices/Wi-Fi_7_(802.11be)_Technical_Guide]

5. [https://edgeup.asus.com/2023/how-wifi-7-achieves-a-faster-data-rate-with-4k-qam/]

6. [https://www.tp-link.com/us/blog/733/wi-fi-7-fundamentals-what-is-4k-qam-/]

7.[「IEEE 802.11be Wi-Fi 7: Feature Summary and Performance Evaluation」、Xiaoqian Liu、Yuhan Dong、Yiqing Li、Yousi Lin、Ming Gan 著]

8. [https://www.ruckusnetworks.com/blog/2023/wi-fi-7-extremely-high-throughput-unleash-the-power/]

9. [https://blog.wirelessmoves.com/2016/10/an-introduction-qam-modulation-for-lte.html]

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