ビデオコーデックの特許ライセンスをめぐる誤りとその回避方法

カテゴリ
オーディオおよびビデオの符号化/復号化
日付
2026年9月10日

FRAND 条件でのオープン標準のライセンス供与と、専有技術のライセンス供与は同じではありません。この 2 つのアプローチを決して混同してはなりません。このことが特に顕著に表れているのが VP9 と AV1 であり、現在の AV2 です

文責:Mattia Fogliacco

シズベルは 2019 年に、AV1 と VP9 を対象としたビデオコーデックライセンスプラットフォームを立ち上げました。その背景には、技術の「ロイヤリティフリー」の性質に関するきわめて多くの誤った情報の存在がありました。市場からの反応は非常に肯定的でした。

この AV1 プールでは、20 社以上の世界的なイノベータが保有する、AV1 ビデオコーディング仕様に関連する 1,900 件以上の特許を対象とするライセンスにワンストップでアクセスできます。AV1 は歴史の浅い技術であるにもかかわらず、AV1 プールを介してライセンスを取得したお客様は今のところ、AV1 完成品市場の約 50% に及びます。一方で、VP9 プールを介してライセンスを取得したお客様は、現時点で理論上到達可能な市場のほぼ全体に及びます。

しかし、技術市場は常に前進し続けています。シズベルでは現在、AV2 に向けたライセンス戦略の最終調整を進めています。AV2 の仕様は 2026 年 6 月に公開されており、準備は最終段階に入っています。シズベルの技術チームとプログラムチームは、2025 年 1 月から、このコーデックに取り組んできました。その結果、ライセンサーとライセンシーの両方の利益のバランスが取れた AV2 ライセンスソリューションの構築に向けて、着実に前進しています。

最近の報道によると、AV2 に注目しているプール運営者はシズベルだけではありません。このような競争は大歓迎です。この 9 年間で、シズベルは、ビデオ符号化技術に関してだけでなく、いかに透明かつ効率的に市場へ提供するかについても、他に類を見ない専門知識を蓄積してきました。シズベルのサービスは、市場の現状を最もよく反映することになるため、初日からこの上ない説得力を発揮するものと確信しています。

AV2 ライセンスの供与をめぐる競争は、一部では規模の競争として、言い換えると、最も多くのコーデックを囲い込んで最大のプールへと成長できるのはどの運営者かという枠組みで捉えられることは明らかです。しかし私たちは、こうした枠組みの捉え方は本質を見誤ると考えています。真の問題は、そのライセンスプログラムが、対象となる技術の性質を適切に踏まえているかどうかです。

だからこそ、今こそ原則に基づいた選択をすべきときです。

すべてのプールが同じわけではない

AV2 仕様の発表と、この仕様を中心に現在形成されつつあるライセンスイニシアチブを契機に、この分野で最も重要な(そして最も誤解されている)問いのひとつが改めて浮き彫りになりました。すなわち、すべてのパテントプールは同じなのか、という問いです。あらゆるビデオコーデックをまとめてライセンス供与するような、売り込む対象をひとつに絞っている企業は、自身に都合の良いように「イエス」と答えるでしょう。しかし、正解は「ノー」です。

標準開発機関(SDO)で採用された規格を基盤とし構築されたライセンスプログラムと、民間コンソーシアム内で開発された専有技術を中心に構築されたライセンスプログラムは、同じ基本製品の単なる 2 つのバリエーションではありません。両者は、異なる起源、異なる法的義務、異なるセーフガード、異なる救済措置に基づく存在です。両者を代替可能と見なすことは、簡素化ではなくカテゴリエラーに相当します。不適切な義務が知らず知らずのうちに不適切な資産に移転され、ライセンサーとライセンシー、そして、より広範な技術市場に不利益をもたらす可能性があります。

すべての出発点は、技術がどのようにして世に出るか、というところから始まります。

標準開発機関による標準化という取引

標準規格は、競争を促進することを意図した、意識的かつ集団的なプロセスによって生み出されます。ISO/IEC MPEG、ITU の VCEG、DVB、ETSI、IEEE といった標準開発機関では、企業、大学、および研究機関が、最善の技術的解決策を規格に含めるために競い合います。そして、市場全体が実装できる相互運用可能な単一の仕様について合意します。このプロセスは、主に競争法に由来する原則によって統制されています。その原則とは、公正、合理的、非差別的(FRAND)条件に基づいた必須特許のオープン性、透明性、利用可能性です。

自らの技術が標準に採用され、他者が相互運用性を確保するためにその標準を実装することと引き換えに、技術の貢献者は、あらかじめFRAND コミットメントを受け入れます。これが標準化における「取引」です。この仕組みがあるからこそ、消費者は、購入したテレビやスマートフォンが世界中のあらゆる放送局やネットワークと相互運用されると確信できるのです。このプロセスは、これまで繰り返しその価値を証明し、多大な社会的利益をもたらしてきました。

専有コンソーシアム

これに対し、VP9、AV1、AV2 などの専有コーデックは、根本的に異なる経路をたどります。専有コーデックは、認可を受けた標準化団体内ではなく、このケースでは Alliance for Open Media(AOM)という民間コンソーシアム内で開発されたものです。シズベルが 2019 年から一貫して指摘してきたとおり、専有コーデックの仕様は標準化団体に採用されておらず、あるいは標準化団体が定めたいかなる知的財産権ポリシーの適用対象になっていません。

この一点だけでも、法的な状況は大きく異なります。標準化という「取引」は行われず、標準開発機関の知的財産権ポリシーは適用されず、したがって、コンソーシアムのメンバーでないため何の誓約もしていない特許権者に FRAND コミットメントは付随しません。

「ロイヤリティフリー」の主張とその効力が及ぶ範囲

オープンメディア運動におけるマーケティング上の決定的な主張は、コーデックが「ロイヤリティフリー」であるということです。しかし、ここでいう「ロイヤリティフリー」が何を意味するかを正確に知ることが重要です。

ロイヤリティフリー誓約とは、非公開のコンソーシアムのメンバーが他社の特許ではなく自社の特許のみに関して行う約束であり、当事者が自ら定めたグループ内で行う契約上の保証です。したがって、コンソーシアムに属さず、そのような誓約を一切していない第三者の権利を、ロイヤリティフリー誓約が制限することは法律上できません。実際、これらのコーデックによって実現する最も重要な特許対象の発明の多くは、コンソーシアムに属していない大学、研究機関、企業などのイノベータが所有しています。

この分断については、商業的な合理性論理も存在します。コンソーシアムのメンバーは、数億台規模で販売しているチップ、デバイス、プラットフォーム、サービスなど、他の事業で収益を得ているため、自社の技術を無償で提供する余裕があります。メンバーは周辺領域の事業収入から得た資金を研究開発に回すことできます。一方、発明はしても、その技術を組み込んだ川下製品を販売はしていない独立系イノベータは、このような収益源を持っていません。そうしたイノベータにとって、資金を回収して再投資する唯一の方法は、ロイヤリティ付きライセンスかもしれません。これが、イノベーションサイクルが回り続ける仕組みです。

「知る」ことと「探索する」こと:根本的な非対称性

この 2 つの状況には、もうひとつの違いがあります。それは、ほとんどの場合、見落とされがちですが、最も重大であるかもしれません。それは一見単純な問いに関係しています。特許権者は、自社の技術が利用されていることをそもそも知っているのでしょうか。

規格の場合:設計段階で認識

標準開発機関/標準必須特許の場合、特許権者は、標準化プロセスの中で対象技術に寄与したため、自社の特許が規格によって実施されていることをよく知っています。特許権者は議論のテーブルにつき、技術的提案を行い、その中のどれが採用されて仕様に組み込まれたかを確認しています。具体的な技術提案と特定の特許との関連性が明確なのは、その両方を生み出したのが特許権者自身だからです。特許権者は、規格が自社の特許に関連していることを認識したうえで、公平、合理的、非差別的(FRAND)条件に基づいてロイヤリティを求めるかどうかを選択できます。そして、特許の段階から標準化された機能の段階までを明確に追跡できる中で、その選択を行うことができます。

この意味では、標準化は仕組みとして「知ること」を可能にします。特許の必須性を確認することも比較的簡単です。なぜなら、特許権者が積極的に参加している文書化されたオープンなプロセスを通じて、特許対象技術が規格化されたからです。

専有コンソーシアムの場合:外部から利用を「発見」する

これに対し、VP9 や AV1 などの専有コーデックの場合、外部イノベータの立場は逆になります。民間コンソーシアムに参加していない特許権者は、自社の発明が利用されているかどうか、どのように実装されているのか、いつ実装を始めたのか、まったく把握できません。その技術は、特許権者が参加していないグループによって、特許権者が見たことのないプロセスを使用して、非公開の環境で組み上げられたものだからです。

実際、民間コンソーシアム外部の特許権者が、そのコンソーシアム創設者の主張を額面どおりに受け取れば、自らの技術は利用されていないとみなされます。そもそも、ロイヤリティフリー制度を主張するならば、原則として、他者の特許対象技術を組み込むべきではありません。少なくとも許可を取る必要があるでしょう。

しかし、AV1 と VP9 の事例でわかるとおり、現実はそうではありません。AV2 でも同じことが起こると予想されます。もしそうであれば、ビデオ符号化の最前線を支える技術の所有者の多くは、自社の発明がこれらの専有仕様によって利用されても気づかないことを意味します。

その結果、特許権者は、自社の技術が利用されているかどうかを外部から「発見」しなければなりません。そのためには、標準化で提供される貢献記録が一切ない状況で、仕様をリバースエンジニアリングし、クレームごとにポートフォリオと対比させる必要があります。これは、単なる事務作業では済まない内容です。そもそも侵害が本当に存在することを知る出発点にたどり着くだけでも、深い技術的専門知識と多額かつ持続的な投資が必要となります。

この不均衡がコストと公平性の両方を変化させる理由

このような不均衡によって、たちまち塗り替わってしまう要素が 2 つあります。

  • コスト構造が根本的に異なります。AV1 や AV2 などの専有技術に基づくプログラムと、FRAND の制約を受ける標準必須特許に基づくプログラムでは、必要とされる投資の構造そのものが、根本的に異なります。負担が大きく、コストのかかる作業は、単に管理にとどまらず、特許利用の特定とその利用を裏付ける証拠の収集にあります。専有技術のライセンスソリューションには、技術の必須性を発見、分析し、それを証明する真の技術的能力を維持し、継続的に投資することがもめられます。標準化に伴う技術貢献の記録が存在しないからです。これはかなり大規模でリスクの高い作業であり、それこそが、信頼できる専有技術向けのプログラムを即席で構築できない主な理由です。

  • 状況の公平性は、率直に言って、第三者の特許権者にとって非常に厳しいものです。民間コンソーシアムで実際に何が起こっているかを考えてみましょう。第三者の技術は、たとえ第三者が承知していなくても、相談を受けていなくても、そしてきわめて重大なことですが、ロイヤリティフリーベースにすることはもちろん、自社の発明を利用可能にすることに一切同意していなくても、コーデックによって実装される可能性があります。つまり、保有者の知らないところで、同意なしに財産が利用されるわけです。そして成果は「無料」だと告げられるのです。これを標準化と比較してみましょう。標準化では、特許権者は自社の技術であることを知っていて、意図的に、透明性のあるポリシーの下で技術を進歩させます。公平性という観点から率直に比較すると、深刻な公平性の懸念を提起するのは、標準必須特許モデルではなく、むしろ専有技術コンソーシアムモデルと言えるでしょう。

したがって、その違いは明らかです。認識、コスト、公平性の点で、両社の状況は正反対です。標準規格においては必須性が自明であるかのように、専有技術ライセンスを構築し、料金を設定すると、必要な作業がプログラムで誤って解釈され、さらに悪いことには、実際にどこに公平性の欠如が存在するのかを見えにくくしてしまいます。

異なる義務、異なるセーフガード、異なる救済措置

2 つのプログラムはそれぞれ異なる経緯で生まれるため、法的な DNA も異なります。この区別は、学術的なものではなく、それぞれのケースで利用可能な契約条件、料金設定の考え方、および権利行使に利用できる手段を決定づけるものです。

  • 規格ベースの(標準必須特許)プログラムには以下が含まれます。

  • 料率規律:料金設定は FRAND に固定されています。

  • 非差別:同様の状況にあるライセンシーは同様に扱われなければなりません。これは、条件が異なる可能性に対する直接的な制約です。

  • 権利行使への制約:差止が認められるには、法的に定義された誠実なライセンス交渉を行うことが求められます。

プールのガバナンス:標準必須特許のプールは、1990 年代の MPEG-2 のクリアランス以降に策定された競争法ガイダンス体系の中で運営されます。

これらのセーフガードは、恣意的に課される負担ではなく、規格が与える並外れた市場ポジションの「代償」なのです。

これに対し、技術が専有であり、FRAND コミットメントが付随しない場合、その構図は異なります。その技術が普及するかどうかは、市場で選ばれるかどうかにかかっています。ライセンスの供与は、通常の特許法によって統治される通常の任意の商取引です。それが意味することは、次のとおりです。

  • ライセンス料は特許対象技術の市場価値を反映しており、FRAND の限度や標準化から借用された累積ロイヤリティ理論によって上限は定められていません。

  • 特許権者が署名しなかった標準開発機関の知的財産権ポリシーによって課される外的な非差別義務はありません。

  • あらゆる特許救済措置が、引き続き利用可能です。特許権者はライセンスを供与する義務を一切負いません。その一方で、特許権者は排他権を行使することができます。

この 2 つの状況を混合してはならない理由

以上からわかるように、規格ベースのコーデックと専有コーデックを利便性を理由に区別なく単一のライセンス事業体に統合することは、単なる運営上の間違いではなく、原則の誤りとなります。

この 2 つを混合すると、どちらの方向にも混乱が生じます。

  • 専有資産に対しては、統合事業体は本来適用されない FRAND の義務、非差別義務、および該当しない救済制約を取り込むリスクを負い、特許権者が保有する権限を持つ料率の自由度と執行手段を無償で放棄することになります。

  • 標準必須資産に対しては、統合事業体は、標準必須特許システムの正当性を支えている慎重にバランスが取られたセーフガード、つまり規制当局、裁判所、実施者が拠り所とする枠組みそのものを希薄化させるリスクを負います。

ひとつの同種の集合体であるかのように、HEVC および VVC(標準開発機関の本当の規格)を AV1 および AV2(専有技術コンソーシアムのコーデック)と共にライセンス供与する単一のプールは、「市場のためのワンストップショップ」ではありません。規制当局は EU 競争法とデジタル市場法の下ですでにオープンメディアライセンスを監視していますが、2 つの原理の境界の曖昧化は、詳細な調査に入る十分な理由を規制当局に与えています。ライセンシーにとっての効率性は、法的一貫性を犠牲にしてまでして獲得すべきものではありません。

強制ではなく、選択による規律

だからと言って、専有技術プログラムをすべて自由競争にすべきだという意味ではありません。むしろ逆です。最高レベルの専有プログラムでは、プールを機能させる良好なガバナンスを自発的に採用します。ただし、それは法的強制力によるものではなく自主的な規律によるものです。そしてそれは、迅速かつ効率的にライセンス供与を行うために、自ら規律を課すという選択なのです。

シズベルのビデオ符号化ライセンスプラットフォームは、2019 年以来、このことを実証してきました。VP9 と AV1 は 2 つの別々のプログラムとして展開され、それぞれが以下によって支えられました。

  • 立ち上げ前に行う、認定を受けた独立した第三者機関による必須性評価

  • 透明性のある条件の公開

  • 摩擦や取引コストを削減するワンストップショップ

  • 技術が実際にどのように利用されるかを考慮した料率体系(ディスプレイデバイスと非ディスプレイデバイスの区別など)。

これらはいずれも、強制されたものではありません。可能な限りシンプルで透明性の高い方法で効率的に技術にアクセスできるようにするために、あらゆることが完全に自発的に行われました。

市場もこれに応えています。シズベルのプログラムは、VP9 市場で圧倒的多数のお客様に、AV1 で大きな市場シェアにライセンスを供与している一方で、他の分野で見られるような訴訟や混乱は回避できている、とみなされました。

これがシズベルが AV2 への拡張を進めているモデルです。すなわち、デバイスとコンテンツの両方をカバーするバランスの取れた効率的なプログラムを長年の技術分析に基づいて構築し、真の必須資産を特定するというものです。これは、かつてなかった規格から借用された条件ではなく、専有技術に適した条件で提供されます。

誠実であり続けること

標準規格には FRAND の義務とそれに付随するセーフガードが伴い、何が利用されたかをイノベータが正確に把握できるようになっています。一方、専有技術ではそのような義務は課されず、外部のイノベータは多額のコストをかけて、自社の発明が利用されていないかを探索せざるをえません。多くの場合、その発明を導入すること自体にそもそも同意すらしていないのですが。何よりも、これは公平性の問題です。特許権者が認識しておらず、許可もしていないにもかかわらず、実質的な義務とコストを課されるというのは、「事実上」適切とは言えません。

標準規格のプールと専有ベースのプールが、本質的に同じものであり、ひとつに統合できると主張するのはまったくの見当違いです。むしろ、イノベータと実施者のどちらにとっても望ましいアプローチは、標準化の規律によって統制される標準必須プログラムと、市場の規律によって統制される専有技術プログラムを、それぞれ独立して扱うことです。そして、シズベルはその方針に取り組んでいます。

2 つの原理に対して 2 つのプログラム。これは制約ではありません。システムが誠実であり続ける仕組みです。

Mattia Fogliacco はシズベルインターナショナルの社長兼 CEO です

この記事は、ライセンス哲学に関する一般的な視点を紹介したものであり、広く議論されることを意図しています。特定のプログラムの基礎となる機密のポートフォリオ情報や必須性分析を開示するものではありません。

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