特許に関する取引は、結局「人」にかかっている理由
シズベルのライセンス責任者 Nick Webb が、その多彩なキャリアの軌跡を語り、長年にわたって成功を支えてきた交渉原則を紹介します
文責:Jake Schindler
Nick Webb は、シズベルの初期からその歩みに関わってきました。若くして故郷の英国を離れ、イタリアに魅了されました。イタリアで複数の会社を 6 年間経営した後、シズベルの創業者 Roberto Dini との偶然の出会いが、数々の寄り道を経ながら、彼を知財ライセンス業界で数十年にわたるキャリアへと導くことになります。
現在はバルセロナを拠点にシズベルのライセンスチームを率い、同社のすべてのプログラムにおけるライセンス交渉を統括しています。先日、Sisvel Insights のインタビューに応じ、自身の長いキャリアと、長年にわたって培ってきた取引哲学について語りました。
シズベルとの関わりはどのように始まったのですか。
私はトリノで企業向けの語学プログラムを提供する会社のパートナーでした。Roberto Dini が、知財に関心のある大学生向けの講座を共同で立ち上げ、「特許英語」を教える講師を雇いたいと考えていました。予定していた講師が直前で辞退し、代わりの人も見つからなかったため、私自身が教えることになりました。当時は特許についてほとんど何も知りませんでしたが。おそらく運命だったのでしょう。Dini と話す中で、最終的に彼から一緒に働かないかと誘われ、それがすべての始まりでした。それは今から 30 年以上前のことです。
これはシズベルの創業間もない頃だったのですね。
はい、当時シズベルは、破産してしまった Indesit という企業の特許ポートフォリオを取得していました。創業初期のシズベルの主な活動は、支援企業であるイタリアのテレビメーカーに代わって RCA と交渉することでした。当時 RCA は業界最大級の特許ポートフォリオを保有していましたが、Indesit のポートフォリオを対抗材料として活用することで、イタリアのテレビメーカーに多大なコスト削減をもたらすことができました。
数年後、私は再び独立を決意しました。製薬業界向けに高品質な医療教育製品を販売する事業を立ち上げ、当初は順調でしたが、欧州で新たな法律が施行され、この分野の支出が大幅に制限されたことで打撃を受けました。数年の「引退」生活を経て、シズベルが再び私を迎え入れてくれることになりました。この 2 度目の勤務で、私はライセンス契約の交渉により深く関わるようになりました。5〜6 年後、再び旅心が芽生え、世界をもっと見て回ることにしました。
現在のシズベルでの勤務は、いつから始まったのですか。
奇妙に聞こえるかもしれませんが、2013 年に合意が成立し、私はシズベルのロンドンオフィスに復帰してその運営を任されることになりました。当時は、比較的新しい Wi-Fi および LTE プログラムを立ち上げるための大きな取り組みが進められていました。困難もありましたが、どちらのプログラムも成功を収めました。それから数年後、Brexit が起きたのを機に、私たちはバルセロナへの移転を決断しました。その理由の 1 つは、欧州の社員にとって英国にとどまるのが困難になると考えたからです。それ以来、私はずっとここにいます。カタルーニャでの生活にはとても満足しています。ここで仕事人生を締めくくってもよいと思える場所です。
シズベルでのキャリアを簡単に振り返ってみました。この会社には長年にわたり実に多彩な物語があり、私はいつも「ドラマにしたら面白い」と言っています。
あなたの取引哲学を一言で表すとすれば、どのようになりますか。
特許ライセンスは、結局「人」なのです。他の誰かが成し遂げた仕事について、別の人と話をするのですから、その点を決して見失ってはいけません。目の前の相手がどのような人かを理解し、その人の組織内での仕事がスムーズに進むように、必要なツールや情報を提供して社内の支持を得られるよう配慮することが重要です。
今の市場では、力で押し通そうとしてもうまくいきません。私は人間関係の構築を信条としており、取引における最大の成功はすべてその姿勢に基づいています。この仕事をいくらでも法律的に整備することはできますが、結局のところ「営業」なのです。そして、優れた営業になりたいのなら、個人的なつながりが不可欠です。相手の気分を害してしまうと、合意にこぎつけるのがずっと難しくなってしまいます。
「最大の成功」について言及がありましたが、特に印象に残 っている取引はどれですか。
私が挙げるとすれば、2018 年に Hera Wireless S.A. の特許ポートフォリオのもとで締結した、Wi-Fi に関する Samsung との取引です。この取引は、最初から最後まで関係構築と信頼の醸成がいかに重要かを示す好例でした。最終的には双方にとって納得のいく条件で合意し、当社のポートフォリオの強さも評価していただきました。 もう一つ印象深かったのは、 RPX との Wi-Fi 取引の成功です。
ある取引の進捗にかかわらず、いつでも会って話し合い、場合によっては食事もできるような関係性が築けると、本当に有利になります。このような関係は複数の取引にまたがって継続し、たとえ相手が他社に移っても個人的なつながりとして続くこともあります。
業界や地域が異なっても、アプローチは同じですか。
アジアでは通常、社内の知財チームと話をしますが、米国ではたいてい外部の弁護士と交渉することになります。そのため、多少力学が異なります。外部弁護士と関係を築くのも悪いことではありませんが、そこまでの効果は期待できないかもしれません。とはいえ、相手が誰であれ、相手の業務をどうすれば楽にできるかを考える必要があります。そして、人間らしく接する ことが大きな助けになります。
では、個人的な信頼関係を築いたうえで、どのように取引をまとめるのですか。
最終的には、相手が自分の上司に提案する内容について「ビジネスとして妥当であり、自分(交渉担当者)の評価にもつながる」と確信できるようにしなければなりません。相手が、提出した時点で拒否されるような条件の取引を上層部に持ち込むようなことは避けたいものです。だからこそ、信頼が非常に重要なのです。
契約条件や金額面など、相手側にも「勝ち」を感じてもらえるようにしなければなりません。私たちが相手にしているのは、非常に賢い人たちです。良好な関係が築けていれば、細かい部分まで建設的な議論ができ、双方にとって納得のいく解決策を見つけることができます。
現在の環境において、ライセンサーにとって最大の不満は何でしょうか。
FRAND は、標準必須特許(SEP)ライセンスの黎明期から大きく進化してきました。この分野でガイドラインが増えているのは、概ね良いことだと思います。ただ、私の考えでは、FRAND は双方向の取り組みであるべきであり、それが現実にはそうなっていないことにフラストレーションを感じます。実際には、FRAND の義務を守っているのは常にライセンサーだけで、他の当事者は好き勝手に行動しているように見えるのです。FRAND は単にロイヤリティ料率の問題ではなく、双方がライセンス締結に向けた意思を示すことも同じくらい重要で あるという認識が、もっと広がるべきだと思います。
ライセンスチームの新規採用で重視しているポイントは何ですか。
ライセンス分野はニッチな市場なので、新しい人材を見つけるのは簡単ではありません。法務や技術のバックグラウンドを持つ人を採用することが多いですが、それに限りません。対人能力に優れた営業職で、戦略的思考ができる方であれば、適切なトレーニングを経て成功する可能性は十分にあります。コミュニケーション能力も非常に重要です。ライセンシー候補に連絡する際は、長くて法的な文面の手紙は送りません。シズベルの価値提案を、簡潔かつ明確なビジネス用語で伝えるよう努めています。
ここでもやはり、人との関わり方が基本になるのです。新しいチームメンバーを指導するとき、私はいつも特許を 1 つ手に取り、それが何か説明してもらいます。確かに、それは技術的課題に対する技術的な解決策です。そして、それは法的権利でもあります。しかしそれ以上に重要なのは、それが個人またはグループの延長線上にあるものだということです。問題を定義する技術者、解決策を開発する研究者、特許を起草する弁理士、世界各国でそれを審査する審査官、それを学んで実用化する技術導入企業、そしてこのサイクルを再び動かすためにライセンス交渉を行う私たちなど、すべての人が関わっています。こうした多くの人々が、それぞれの特許に指紋を残しており、だからこそこれは「人」のビジネスなのです。
クイックファイア質問…
いつも週末はどのように過ごしていますか?
私は家族中心の人間で、妻と息子と過ごしたり、犬と散歩に行ったりします。また、ボートでコスタ・ブラバを訪れるのも楽しみの 1 つです。渋滞に巻き込まれるよりずっと快適です。マウンテンバイクを持っていて、素晴らしいトレイルの近くに住んでいるのですが、バーベキューが好きすぎて、なかなか自転車に乗る機会がありません。
バルセロナで 1 日自由に過ごせるとしたら、お勧めの見どころやアクティビティ、食べ物はありますか?
それは難しい質問ですね。ここには見るべき場所や体験できることがたくさんありますが、最終的にはやはり個人の好みによるところが大きいですね。とはいえ、グエル公園を訪れることと、ゴシック地区の街並みを散策するのはぜひおすすめしたいです。その近くでブランチを楽しむなら、ボルン地区にあるラトーがとても良いですよ。いつ行っても満足できます。
休暇中によく行く場所はありますか?
特に「ここ」と決めたお気に入りの場所はないですね。これまで素晴らしい場所にも行ってきましたが、まだ行ったことがなく、いつか行きたい場所もあります。オーストラリアを旅行してみたいですね。キューバも楽しそうだと思います。
これまでで最も印象に残っているライブパフォーマンスは何ですか?
これはすぐに答えられます。昔、ウェンブリー・スタジアムで、Rolling Stones の「Start Me Up」ツアー(ロンドン公演)を何千人もの観客と一緒に観ることができました。彼らのライブはこれまでに 3 回観ましたが、最初の公演が断トツで最高でした。
好き なテレビドラマは何ですか?
最近では、Guy Ritchie の『ジェントルメン』を一気見しました。『ナルコス』も面白かったですね。ちょっと危ない傾向かもしれませんが。『タルサ・キング』も好きだなんて、言わない方がいいかもしれませんね。
これまでに受けた最高の仕事上のアドバイスは何ですか?
自分の声が好きすぎて、ただ話すべきだと思ってしゃべっている人は本当に多いですよね。そんな場面に出くわすたびに、ある特別な友人の言葉を思い出します。「口を開く前に、脳と舌をつなげなさい。」厳しい言葉ですが、本当にその通りです。息子とキャリアについて話すとき、私はよくこう言います。「自分が好きなことを見つけて、それに対してお金を払ってくれる人を見つけなさい。」私はそのアドバイスを自分自身でも実践してきたと思います。


