新たな政策環境における米国の SEP 実務
シズベルのライセンスディレクター兼法務顧問である Alex Debski が、裁判所と米国特許商標庁(USPTO)の大きな変化に実務家がどう対応すべきかを解説します。
今、米国の標準必須特許(SEP)実務は重要な岐路に立っています。USPTO と司法省の反トラスト局に現政権の指導体制がしっかりと根付いたことを受け、連邦政府は特許権者の権利保護をより積極的に推進する方向へと舵を切りました。法律実務の現場では現在、当局の大幅な政策転換に追われています。特に顕著なものとして、特許審判部(PTAB)における裁量的拒否の劇的な増加、ならびに最近の上訴判決に起因する損害賠償などの分野における変化が挙げられます。
一方海外では、グローバルな SEP 問題について見解を示すよう米国に迫る動きが進んでいます。英国やドイツなどの外国法域における世界規模の FRAND 算定や、域外に及ぶ侵害申し立ては、米国裁判所にとっても無視できない存在となりつつあります。こうした背景から、国内のイノベータを保護し、その力を引き出すために、米国の政策対応が連携を強めている兆候が見られます。
これらは米国の SEP 権利者を取り巻く環境を複雑化させている要素のほんの一部にすぎません。
PTAB の変更は当面継続される見込み
現在、PTAB は、裁量的拒否の積極的な運用により、特許権者に有利な方向へと劇的な転換を見せました。John Squires 長官の現指導体制の下、USPTO は当事者系レビュー開始に関する大幅な裁量権を取り戻しました。
この転換後の初期データによると、新しい政策導入後の最初の数ヵ月で手続開始拒否率は約 80% に達したことが示されています 。これは、クレームの大半が無効とされてきた従来の常態からの極めて劇的な逆転を意味します。
IPR 制度の頻繁なユーザーは、多角的にこれらの変更に対抗策を講じてきました。具体的には、PTAB による手続開始の拒否決定に対する直接の上訴に加え、新しい政策が行政手続法および他の法律の下で適切に導入されたかどうかを問う訴訟も提起されています。
これらの政策転換をめぐるさまざまな法的な争いは、2026 年の新聞の見出しを飾り続けることが予想されますが、「以前の状態」を取り戻せる可能性は低いと言えます。関連法令で USPTO 長官に与えられた「絶対的裁量権」により、新しい政策の反対派が訴訟を通じてそれを覆すことは非常に困難となるでしょう。つまり、特許権に関して全く異なる見解を持つ新政権が登場しない限り、現行の規則が存続する可能性が高いことを意味します。
これは特許訴訟当事者にとって戦略的判断を大きく変えるものであり、権利者が国際的な選択肢を検討するにつれて、米国での SEP の権利行使がさらに増加する可能性があります。
原告は損害賠償理論の再考必須
米国の特許訴訟当事者にとって、2026 年に見られる顕著な傾向は、連邦巡回控訴裁判所による特許損害賠償に関する専門家の証言に対する一層厳格な審査姿勢です。2025 年の EcoFactor 訴訟の判決は、十分な技術的および経済的裏付けを提供していない損害賠償の専門家に対し、控訴裁判所が著しく厳しい姿勢を示した一連の訴訟における最新の事例でした。
EcoFactor 訴訟における重要な判断の 1 つは、下級裁判所が専門家の証言が適切 な事実とデータによって裏付けられていることを保証していなかったことです。大規模なポートフォリオを扱う訴訟では、一括払い契約として構成されたライセンスは、しばしば「分解」され、比較可能な単位当たりのロイヤリティ料率を算出する手法が用いられます。しかし、裁判所は、この「分解」が過度に広範または曖昧な方法で行われてはならないとの通知を出しました。
これらの「分解」作業は今、これまで以上に厳密な精査の対象となっています。これにより特許権者に追加の立証負担が生じるものの、適切なサポートを受ければ、高度化した基準を満たすことができるはずです。原告と原告が依頼した専門家は、包括的なポートフォリオライセンスが、「どのようにして、訴訟対象である特許に対して具体的なレートに換算されるか」について、詳細な方法論を提示する必要があります。これを怠れば、請求された損害賠償を裁定する合理的な根拠がないと陪審員に判断され、結果として多額の費用を要する差し戻しや新たな損害賠償裁判につながる可能性があります。
eBay 訴訟後の状況下では、米国特許権者にとって、差止命令は事実上選択肢から外れています。これにより、多くの重要な SEP 論争の舞台は他国へ移ることとなりました。この結果、莫大な金銭的損害賠償発生の可能性が、米国特許訴訟における主要な焦点となっています。今後は、この実務分野が EcoFactor 訴訟後にどのように発展するか、また、より強固な損害賠償理論によって控訴審を乗り切るだけの多額の賠償金が生み出されるかどうかを注視することが重要です。