元米国特許商標庁長官「米国は世界の標準必須特許(SEP)紛争で二次的な役割しか果たしていない」

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2025年6月06日

David Kappos 氏の独占インタビュー。米国の裁判所や政策立案者がどのように SEP(標準必須特許)の主導権を欧州と中国に委ねているのか。パテントプールの重要性についても解説

David Kappos 氏は、米国知的財産権専門家として、産業界では 2009 年まで IBM の主任特許弁護士、政界では 2009 年から 2011 年まで商務次官兼米国特許商標庁長官を務め、そして今に至るまでの 13 年間法律事務所 Cravath のパートナーとして活躍するなど、キャリアの頂点に立っています。

5 月末の Sisvel Insights の独占インタビューで Kappos 氏は、USPTO の新体制、米国特許制度の改革の可能性、SEP/FRAND の方向性、そして技術へのアクセス提供におけるパテントプールの役割など、米国および世界が直面している主要な知的財産権問題についてのさまざまな洞察を共有しました。

特に注目すべきは、企業の間では知的財産のビジネス価値にこれまで以上に関心が寄せられているにもかかわらず、裁判所の判決や政策選択によって、標準必須特許(SEP)をめぐる世界的な紛争において米国が脇役的な立場に置かれていると指摘した点です。

トランプ新政権が発足し、地政学における知的財産の役割がますます重要になるにつれ、David Kappos 氏のような専門家の知識と経験を活用することが不可欠になります。このような機会を得られたことを大変光栄に思います。

Kappos

David J Kappos 氏は、Cravath、Swaine & Moore LLP のコーポレート部門のパートナーであり、同事務所の知的財産業務の共同議長を務める

米国の Howard Lutnick 商務長官と John Squires 米国特許商標庁長官候補による知的財産権リーダーシップチームについてどうお考えですか? また、新政権が標準必須特許(SEP)について正式に検討する可能性はあると思いますか?

両者とも、知的財産全般、特に特許に関する経験が豊富であり、イノベーションの成果における知的財産の重要性を理解しています。経済成長、雇用、技術開発のために強力かつ効果的な知的財産権を推進して、人類が直面する大きな課題に取り組めるよう尽力してくれると楽観視しています。

欧州や中国といった世界市場で SEP が注目を集めていることを考えると、政権が行動を起こす可能性は十分にあると考えています。シンプルに前向きな動きの 1 つとして、第一次トランプ政権時代の SEP 政策を復活させることが挙げられるでしょう。さらに、非常に前向きな動きとして、議会と協力して SEP を支持する法案を策定し、推進することが挙げられます。

米国議会には、特許適格性に関する PERA 法、差し止めによる救済に関する RESTORE 法、特許審判部(PTAB)に関する PREVAIL 法など、さまざまな特許改革法案が提出されています。これらの法案の見通しは?

これら 3 つの法案はいずれも成立の可能性が高まっています。前回議会で指摘された問題点を修正し、再提出されました。支持基盤が拡大し、反対勢力の説得力も低下しています。行政当局が後押しすれば、状況は一変し、法案成立の可能性が開けるでしょう。

米国特許制度で一つだけ変更を提言するとすれば、それは RESTORE 法の制定です。eBay 判決は下級審の解釈によって適用範囲が大幅に拡大されており、管理下に置く必要があります。これを RESTORE 法でシンプルかつ直接的に対応します。この法案は、弱体化した米国特許制度を劇的に転換させるでしょう。

中国との技術競争がもたらす課題への対応については、超党派的な合意が形成されているようです。これに対して、米国の指導者たちは、イノベーション、特許制度、規格設定などに意図せず悪影響を与えることなく、どのように対応できるでしょうか?

中国との競争における重要な要素の一つは、米国でのイノベーションへの投資を奨励することです。そのための仕組みがあります。それは特許制度です。米国が中国との競争に備えるうえで最も確実な方法の一つは、知的財産権法を強化することです。知的財産権法の強化は、イノベーションへの投資、技術革新、市場におけるリーダーシップ製品・サービス、経済成長、雇用、国家安全保障の強化に直接的に繋がります。

Lenovo 対 Ericsson 訴訟の判決後、英国裁判所の方向性を批判し、IAM 誌で「標準必須特許(SEP)の短期ライセンスを実施者に付与することは、イノベータに甚大な損害を与えるだろう」とコメントしていたかと思います。最近のOptis 訴訟の判決について、どのような見解をお持ちですか?

控訴裁判所が Optis訴訟において Apple のロイヤリティ義務を認定する際に用いられたロイヤリティ設定手法を修正したので良かったと思いました。そのとき、高等裁判所の新たなロイヤリティ設定手法も断念されました。この手法では、当該訴訟に適用される合理的なロイヤリティ料率に関する専門家の提言を考慮に入れることができなかったからです。

UPC(統一特許裁判所)は SEP の執行戦略においてますます中心的な役割を担いつつある一方で、実施者は英国や中国で訴訟を続けています。これらの重要な国際紛争で米国が担うべき役割について、どのようにお考えですか?米国の裁判所は二次的な場になりつつあるのでしょうか?

事実、現在のところ米国は SEP 紛争において二次的な役割を担っています。なぜでしょうか。差し止め命令が発令されず、損害賠償額さえもが控訴裁判所によって日常的に減額されているためです。一方、UPC は主要な役割を担う態勢が整っており、それを行う必要があります。UPC は、SEP のイノベータと実施者の両方に、実用的かつ現実的な要件が課される法廷の場なのです。

数多くの大手企業買収や取引に携わっていることと思います。そこでお伺いしますが、Fortune 500 の経営幹部は、2025 年の知的財産権をどのように見ているのでしょうか?過去 10 年間で大きく変化しましたか?

この 10 年間ですべてが変わりました。知的財産権は、取引の検討や設計において、経営幹部の間で頻繁に話題に上がるようになりました。知的財産権はあらゆる取引において議論される要素であり、10 年前よりもはるかに多くの取引において重要な要素となっています。

例えば、私が手がけるバイオ医薬品取引では、知的財産権、特に特許が決定的な要因となります。取引が成立するか破談になるかは、購入者の経済モデルが特許に基づく独占権にどのような影響を与えるかによって決まります。有効性の変化、特許期間の調整、特許期間の延長に特許資産が耐えられるかどうかに関する知的財産弁護士の見解は、非常に影響力を持っています。

ソフトウェア取引では、ソフトウェアの所有権管理を維持できるかどうかが重要となり、オープンソースなどの制約による開示義務により取引が断念される場合もあります。データが重要な価値ドライバーとなる場合も同様です。商標権を重視する取引においては、管轄区域や商品/サービス区分で主要ブランドを幅広く保護することが取引価値に大きな影響を与える場合があります。

技術ライセンスの将来において、パテントプールはどのような役割を担うでしょうか?

非常に大きな役割です。ようやくパテントプールやプラットフォームがグローバルライセンスの難題を解決できるようになりました。シズベルのようなプラットフォームやパテントプールが近年これほど注目を集めるのには理由があります。まず、実施者にとっては、重要な標準規格の実装に必要な SEP ポートフォリオのライセンスに関して、必要な権利をほぼすべて取得できるワンストップショッピングが利用できることが挙げられます。そして、イノベータにとっては、イノベーション投資から妥当な回収を受けられることが挙げられます。これらはすべてグローバルベースで行われ、摩擦や紛争が最小限に抑えられています。

規制当局や政策立案者であれば、パテントプールベースのライセンスソリューションを促進するためにできることが山ほどあります。彼らがベストプラクティスを構築し、ノーアクションレターを発行し、講演や論文でパテントプールやプラットフォームを推進してくれることを期待します。そして何よりも重要なのは、法律を制定して、パテントプールやプラットフォームの利点を立証し、支持していくことです。

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