IPBC Europe、話題の中心は統一特許裁判所、英国、米国

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2025年4月03日

ロンドンで開催された今年のイベントでは、400 人以上の代表者が集まりさまざまな議論が展開され、主に、EU 裁判所の重要性の高まり、FRAND 紛争に対する英国裁判官の対応、トランプ政権による知的財産への影響が話題の中心となりました。

文責:Joff Wild

先週ロンドンで開催された IPBC Europe で話題となった 3 つの管轄区域に関する話を紹介します。このイベントは、Royal Lancaster Hotel で開催され、400 人以上の代表者が集まり、重要で興味深いテーマが数多く取り上げられましたが、注目を集めたのは統一特許裁判所(UPC)、英国、米国に関する話題でした。最初の 2 つは一連の重大判決に伴い話題になったと考えられます。一方、米国に関しては、トランプ新政権によりさまざまな面で知的財産権の保有者に問題がもたらされる可能性があるという認識によるものです。

統一特許裁判所の力

両日とも、はっきりしたのは、UPC が重要なゲームチェンジャーになっていくということでした。すでに下された判決は、差し止め命令による救済を講じることで、原告が有利になるよう裁判所が迅速に対応できることを示しています。

これにより被告にもたらされる危険性については、OPPO の特許訴訟およびライセンスの責任者である Julia Zhu 氏が最もわかりやすく説明していました。彼女は、統一特許裁判所が技術導入企業にとってどれほど重要なのかを明らかにしました。本会議「統一特許裁判所の勝ち目」で、彼女は「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と意見を述べ、紛争中の当事者のニーズに対してはバランスのとれたアプローチを取るよう裁判所判事に求めました。

OPPO がドイツから撤退した背景に、特許訴訟で発せられた差し止め命令があったことは、多くの人にとって忘れられないことでしょう。同社も、ドイツ市場の規模であれば撤退が妥当であると半ば当然のように考えていました。差し止め命令が、統一特許裁判所制度に加盟している EU 加盟国 18 か国すべてに及ぶのであれば、話はまったく異なります。

同じセッションでは、統一特許裁判所ミュンヘン支部の Matthias Zigann 裁判長から興味深い意見が挙がりました。一番のポイントは、SEP 紛争で裁判所が独断でグローバル FRAND 率を設定できてしまうということに対して懐疑的な意見を示したことでしょう。あり得ることだという意見がある中、Zigann 氏は疑念を示しました。料率の設定に必要な証拠の量は、裁判所が目指す「野心的なスケジュール」と相容れない可能性が高いと彼は説明します。その代わりに、裁判官は原告が提示する料率が FRAND であるかどうかに重きを置く傾向があるとのことでした。

また、Zigann 氏は他のコメントで、FRAND ライセンスを取得するために実施者が先回り的な措置を取ることができる可能性を排除しませんでした。抽象的に話すのは難しく、提示された議論に依存すると彼は述べました。また、制度全体をサポートできるよう英語で訴訟を提起するように原告に求めました。そして、統一特許裁判所の支部はどこも質が非常に高いため、ミュンヘン以外も検討するようアドバイスしました。最後のアドバイスについては、ミュンヘン裁判所の作業負荷の増加に関することなのか、統一特許裁判所が汎ヨーロッパの裁判所ではなくドイツの裁判所と見なされるかもしれないという懸念から出たアドバイスなのか明らかにされていません。

英国は独自の道を行く

統一特許裁判所は一般的に原告が差し止めを受ける裁判所とされています。一方、英国の裁判所は、ビジネス紛争を解決するための裁判所として、FRAND 訴訟で自分たちの存在感をアピールしているように見えます。近年の数々の判決はそれを裏付けており、最近の例としては Panasonic 対 Xiaomi 事件Lenovo 対 Ericsson における控訴院の判決が挙げられます。しかしながら、英国の裁判所が自らをどのように認識しているかは、必ずしも他国からどのように認識されているかとは一致しません。

例えば、 Lenovo 対 Ericsson の判決に関するいくつかのセッションでは、困惑がある程度見られたと言えます。Nixon Peabody のパートナーである Sasha Rao 氏との 1 対 1 のインタビューで、Nokia Technologies の最高ライセンス責任者 Susanna Martikainen 氏は、判決で裁定された暫定ライセンスについて納得していなかったことを明らかにしました。さらに、懸念点として、被告がどこかの裁判所を利用して別の裁判所のプロセスを妨害する可能性があることを挙げました。また、ライセンスの価格設定に対する「妥協する」アプローチに問題があることにも触れました。つまり、Lenovo は FRAND 料率を支払わなくても、当該の SEP を使い続けることができてしまうのだと彼女は主張しました。

これらの問題などは、会議最終日の本会議「英国での SEP 実施の限界を検証する」で考察が展開され、素晴らしい議論となりました。Naomi Hazenberg 氏(Bristows)の司会で、Justus Baron 氏(Northwestern University)、Paul Meyer 氏(HKA)、Teo Taponen 氏(InterDigital)、Pippa Wheeler 氏(HP)によるパネルディスカッションが行われ、礼譲、暫定ライセンス、料率設定、法廷地あさりなどをテーマに議論が展開されました。

英国の裁判所での判決に関しては透明性が高く評価され、FRAND 料率の設定に対する意欲が支持されましたが、最近の判決の中には、行き過ぎ感がありました。Hazenberg 氏は、英国の最高裁判所が Lenovo 判決に関する Ericsson の控訴を審議するものと確信していました。

やりがいのある新たな米国市場

会議の最後のセッションのタイトルは「Crystal ball insights into the global patent landscape(世界の特許情勢に関する水晶玉の洞察)」でした。表向きは「グローバルな発展について」とされていましたが、議論の大部分は米国を中心にした展開となり、トランプ新政権による知的財産権保有者(特に国外に拠点を置く保有者)への影響などが取り上げられました。議論が紛糾したセッションとなりました。

Siemens plc の Sam Williams 氏の発言は、関税をはじめ、サプライチェーン、顧客、収益フローを混乱させる可能性について触れ、非常に興味深いものでした。これが出願やポートフォリオ管理へのアプローチに影響を与えることに彼女は驚いた様子を見せました。Breville Group の Jarred Twigg 氏は、知的財産権の収益化において強力なバックグラウンドを持ち、USPTO の次期長官に指名されている John Squires 氏が率いる USPTO で、画期的な変化が起こる可能性について話しました。Leydig, Voit & Mayer のパートナーである Eric Arnell 氏は自身のパートで、審査官の離職率に触れたうえで、短・中期的なターンでのバックログの問題を解決するのは、技術採択を急ぐか、申請をスムーズに通過させない限り不可能だろうと懸念を示しました。

Canon の Matthew Hitching 氏は、政権が唱える積極的なアメリカ・ファーストのレトリックを踏まえ、今後は USPTO の外国人申請者や米国裁判所の訴訟当事者にとって公平な競争条件がなくなるかもしれないと懸念を示しました。パネリストの間では、米国以外の特許権者であることがいろいろ問題になるかもしれないという不安感が全体的にありました。

「米国では法の支配が脅威にさらされることになるのでしょうか?」と、Alex Rushent 氏(Minesoft)が司会者に質問しました。これに対し Arnell 氏は「そうなるかもしれません」と答えました。実際にそのようになるかどうかはまだわかりませんが、そもそもこのような質問が出たということが(即座に一蹴されることもなく)、世界最大規模かつ最も重要な知的財産市場に対するこれまでの見方が数週間でどのように変化したかを物語っています。

今起きていることにより、少なくとも一部の企業では、知的財産戦略に米国をどの程度まで含めることができるか、あるいは含める必要があるのかを知的財産弁護士が慎重に検討することになったのは明らかです。今は静観すべきなのでしょうか?もしくは、断固たる対応策を講じて、米国市場への露出のリスクを回避したり、露出を減らしたりするべきなのでしょうか?これにより、米国特許の価値にどのような影響がもたらされるのでしょうか?これらは、知的財産の専門家が想像したこともない、考えたこともないほどの大きな議論です。ましてや、年の初めに公の場で話題にしたことなんてありません。驚くべき内容でした。

IPBC Europe 2025 c

グローバル開発に関するパネルで議論した内容は、ほんの数週間前には考えられなかった問題だった

その他

シズベルの上級職員が司会を務める 2 つのセッションは 2 日間にわたり行われ、他にもさまざま問題について代表者たちが意見を交えました。

本会議となるエキスパートフォーラムでは、同社の社長兼 CEO である Mattia Fogliacco が中心になり、パネリストには Douglas Gordon 氏(Leonardo UK)、Sam Williams 氏(Siemens plc)、Koenraad Wuyts 氏(KPN)、Cheng Yu 氏(Xiaomi)らが、双方の取引立場から見た透明性、ロイヤリティの価格設定が合意に至るまでの流れ、訴訟を行う時期など、取引形成のさまざまなシナリオについて議論しました。啓発的な議論となりました。

IPBC Europe 2025 b

取引に関するエキスパートフォーラムではシズベルの Mattia Fogliacco が司会を務める

ライセンスプログラムの責任者である David Muus は、自身のパートで、「新しい技術のライセンス迷宮」と題するブレイクアウトを開きました。これには、Thomas Buchholz 氏(BSH Home Appliances Group)、Stavros Kyris 氏(Nokia)、Sonja London 氏(Tactotek)、Roy Maharaj 氏(Ericsson)が参加して、IoT などの新しい分野でのライセンス課題について議論しました。この分野には、複合的な垂直産業が存在し、知的財産の理解が進んでいない企業も少なくありません。

IPBC Europe 2025 a

シズベルの David Muus が率いるパネルディスカッションで、新たな垂直産業でのライセンス課題について議論

シズベルは、光栄にも IPBC Europe 2025 のプラチナスポンサーとなりました。IAM チームの皆様には、立派なイベントになりましたことをお祝い申し上げます。今年 6 月にボストンで開催される IPBC Global、今年後半に東京で開催される IPBC Asia はもちろん、2026 年 3 月にパリで開催されるイベントも楽しみにしています。

Joff Wild はシズベルのコンテンツおよび戦略的コミュニケーション責任者です

本記事は、個人として執筆されたものです。この記事に記載された見解は執筆者自身のものであり、必ずしもシズベルの見解を反映するものではありません。本内容は情報提供のみを目的としており、法的助言として解釈されるべきではありません。

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