英国 FRAND「法」:その現状
シズベルの特別ゲスト分析。英国裁判所での最新 の SEP 判決よりライセンシングのプロが知っておくべきこととは。Gowling WLG のパートナー Alexandra Brodie 氏が解説
文責:Alexandra Brodie 氏
ごく最近まで、裁判所による FRAND 評価に関する判決は世界的に少ない状況でした。これは驚くべきことではありません。特許権者も実施者も目指しているのはライセンスについて取り決めることです。誰も不確実な訴訟に時間やコストを費やすつもりはありません。そして、賞賛すべきことに、交渉の大半はライセンスに帰着し、訴訟に至ることはありませんでした。
判決が少ないもう 1 つの理由として、これまで英国iと中国iiのみが、当事者間で相互の同意のないグローバルライセンスの FRAND 料率および条件を確定させてきたということが挙げられます。統一特許裁判所がどのようにするのかはまだ見えていませんiii。ドイツのアプローチを維持するのか、それとも詳細な料率と条件の決定に乗り出すのか。もしくは当事者を特許調停・仲裁センターに誘導しようとするのかもしれません。
英国の控訴裁判所は、過去 12 ヶ月間に、InterDigital 対 Lenovo と、Optis 対 Apple の 2 訴訟に対して、詳細かつ徹底的な FRAND 評価判決を下しました。この 2 つの判決は、さまざまな地域での複数の紛争を含む長い交渉と訴訟の歴史を伴う複雑なケースに端を発しています。そのため、これらの判決は、当事者が相当な期間にわたり数多くの判断をし、戦略的選択を行なってきた産物と言えるでしょう。
英国を管轄区域とする特許権者にとって朗報なのは、FRAND の原則が増加しているということです。これらの原則は控訴レベルでも認められるように なり、ライセンス戦略や訴訟戦略の指針となっています。
FRAND の原則 – 判決の共通基盤
英国の管轄区域に関しては、次の 3 つを覚えておくことが重要です。(1)英国は、ドイツや統一特許裁判所とは異なり、独占禁止法や競争法の問題ではなく、契約の問題として FRAND 条項の確約にアプローチします。(2)英国は、裁判官に大きな裁量権を与えるコモンローの管轄区域です。(3)これらによる FRAND ライセンスには、裁判で当事者が提示した詳細な根拠や主張が反映されます。したがって、当事者が主張を示さなかった場合、判決に反映されることはありません。裁判所は、FRAND とは何かを調査するためにあるのではなく、提示された紛争を裁定するためにあります。
とはいえ、FRAND の原則が増えてきたため、英国裁判所でもこれらを判決に取り入れるようになってきました。こうした原則は(当然ながらすべての原則がすべての訴訟に適用されるわけではありませんが)、ライセンス戦略や訴訟戦略を策定するうえで有用かつタイムリーな指針となります。
FRAND ライセンスは、仮想交渉においてライセンス提供の意思がある特許権者とライセンス取得の意思がある実施者が締結するライセンスです。したがい、裁判所は、確定されたライセンスの条件や料率に関する懲罰行為および褒賞行為に関与しません。
FRAND 差し止め命令 – 実施者が有効かつ必須の特許を侵害すると判断された場合、裁判所が FRAND 差し止め命令を出します。この命令は、実施者が裁判所によって最終的に決定された FRAND ライセンスの締結を確約し、これを締結しない限り、継続することになります。
ライセンス構造 – FRAND ライセンスはランニングロイヤリティ型や一括型の場合があります。ランニングロイヤリティライセンスは、従価型や単価型の場合があります。FRAND を示す単一の構造や、他に比べ「FRAND 的」な構造というものは存在しません。
適用領域 – 英国裁判所によって確定された FRAND ライセンスに反映される領域は、当事者間のライセンスが FRAND であるとする証拠の中で示された領域となります。一般的にはグローバルです。
過去 – 他者の特許を使用していた場合、これまでの使用料はすべて支払う必要があります。将来のライセンス期間は、訴訟時に示される証拠に依存します。
過去の価値 – FRAND ロイヤリティは、将来の使用と同様に過去の使用にも適用されます。過去の使用であることを理由に割引が適用されることはありません。
利息 – 特許権者がロイヤリティを受領するまで、未払いのロイヤリティに対してはすべて利息が発生し、支払いが求められます。これまで、判決を通して、一定期間で複利計算された年ベースの利息が裁定されてきました。
評価方法 – FRAND ライセンスで支払われるロイヤリティを決定する場合、特許権者のポートフォリオに対するライセンスに関連する同等のライセンスから始めるのが良いでしょう。他の特許権者のポートフォリオに対する実施者のライセンスも有用な場合があります。トップダウンの手法は、比較可能なライセンスが存在する場合、これらの分析のクロスチェックに対して有用ですが、比較可能なライセンスが存在しない場合、トップダウンの手法が FRAND 条件を設定 するための主要な証拠源になります。
比較可能なライセンス – 利用可能なすべてのライセンスが係争中のライセンスと比較できるわけではありません。裁判所では、利用可能なライセンスを「バスケット」のようにすべて集約し、その中で検討して現在の紛争に最も匹敵するものを特定します。次に、裁判所では、利用可能なデータを単純分解して信頼性について考慮します。ライセンスは、当事者、使用権が認められている技術、販売品の構成、販売の地理的分布、期間などに関して類似点が非常に多くても、データを分解してみると、構成、他の条件、交渉に関する状況的要素によっては最も信頼できるデータが得られない場合もあることを裁判所では認識しています。
比較対象を分解 – いずれかの当事者が主張する項目が価値に影響を及ぼしている場合、比較対象を分解します。たとえば、FRAND ロイヤリティに適用される割引、交渉力の影響、他の状況的要素は根拠を示す必要があります。ライセンス交渉時の当事者の意思を確認できるものが理想的です(可能であれば)。割引、適切な根拠、分解などの例はあらゆる判決で考慮され、比較可能なライセンスの過去の販売を根拠とした価値になります。
行動(意欲、ホールドアップ/ホールドアウト)– 裁判所では当然ながら不適切な行動を容認しませんが、確定されるライセンスは、仮想交渉においてライセンス取得の意思がある実施者とライセンス提供の意思がある特許権者の間の FRAND ライセンスとなります。裁判所では、現実の世界では誰もが交渉に尽力し、ホールドアウトやホールドアップは結果的に生じるもの であり、これらがデータの信頼性に影響を及ぼす可能性がある場合は、比較対象の分解をもって検討するものと認識しています。
FRAND の原則 –その他の項目
以下の項目は、英国の FRAND 判決の一部(すべてではありません)で取り上げられており、ライセンシングアプローチについて検討する際に注目すべきポイントです。
SSPPU(最小販売可能特許実施単位) – 高等裁判所の審理において、Apple は SSPPU ライセンシングに基づく訴訟を進めました。この訴訟は裁判所で一切認められず、Apple はこの主張を上訴に含めることすらできませんでした。
ポートフォリオの質/強さ – Optis 対 Apple 訴訟は、紛争の目的上、Optis のポートフォリオが平均的な強さ/質であるという合意のもとで進められました。この問題は控訴裁判所の判決で指摘されました。このことから、ポートフォリオの質/強さが常に平均的とは限らないこと、質の高いポートフォリオにはより高い FRAND 料率を提示できることが示唆されます。言い換えれば、価値は必ずしもポートフォリオに含まれる特許数に制約されるわけではないということです。
評価方法 – InterDigital 対 Lenovo 訴訟で、裁判所は評価のクロスチェックとしての「ヘドニック回帰」を却下しました。これには、比較対象となるライセンスが数多く使用可能だったことが訴訟の背景にありました。この評価方法は計量経済学者の間で広く使用されている方法ですが、裁判所で使用できる比較対象があまりない場合は、考慮に入れるべき方法となります。
支配的地位の濫用 – 反トラストが議論されたのは Optis 対 Apple 訴訟のとき のみで、裁判所では、特許権者が設けた拘束力のある FRAND 条項の影響に留意し、反トラストの議論が一切認められませんでした。
全体像
英国の FRAND 評価に関しては、特許権者にとって明るい状況にあるようです。裁判所がグローバルライセンスとして FRAND ライセンスを確定することになります。さらに、特許権者のポートフォリオの使用が過去のことであっても、ポートフォリオを使用するたびに FRAND ロイヤリティを実施者に対して裁判所が命じることになります。実施者が使用した日から、特許権者側においてロイヤリティ支払いの受領が遅れた場合には、遅延補償として利息が特許権者に支払われることになります。また、これまで英国裁判所で裁定される FRAND ロイヤリティ料率は低いと言われていましたが、控訴裁判所は InterDigital 訴訟でロイヤリティ料率を約 30%、Optis 訴訟で約 900% 引き上げました。
「暫定ライセンス宣言」は?
最近の相次ぐ判決(Panasonic 対 Xiaomi、Huawei 対 MediaTek、Lenovo 対 Ericsson、Alcatel 対 Amazon)において、英国裁判所の FRAND 管轄権を発動した特許権者および実施者が、裁判所による FRAND ライセンスの裁定を待つ間、必要に応じて調整可能な暫定ライセンスを締結することを宣言し、これが裁判所で認められました。
この記事を書いている時点で、まもなく Samsung 対 ZTE の訴訟においても暫定ライセンスが決定される見込みです。
想定されているライセンスの鍵は、実施者がライセンス料を支払うことにあります。当事者が暫定ライセンスを締結することが明白であれば、世界中の他のすべての訴訟は中止され、当事者は英国の管轄区域(ま たは和解)にコミットするでしょう。
現実世界の FRAND ライセンスプログラムで当事者が提示してきた証拠からも暫定ライセンスの前例はありません。また、ETSI IPR 政策や指針にもそのような概念が取り上げられている箇所はありません。宣言的救済の起源は、世界的な訴訟を「解決」しようとする裁判所にあるようです。もちろん、訴訟が不適切であると当事者が判断した場合は、当事者が裁判前に裁判所に申し出て、訴訟手続きの延期、取り消し、訴訟差し止め命令をいつでも要求することができるようになっています。
暫定ライセンス宣言は命令ではありません。英国裁判所が当事者に暫定ライセンスを締結するように命じたことはありません(また、命じることもできません)。そして、Ericsson の対応のように、両当事者は自由に宣言を無視することができます。
Alexandra Brodie 氏は Gowling WLG のロンドンを拠点とするパートナーです
この記事に記載された見解は執筆者自身のものであり、必ずしもシズベルの見解を反映するものではありません。本内容は情報提供のみを目的としており、法的助言として解釈されるべきではありません。
i Unwired Planet 対 Huawei、IDG 対 Lenovo、Optis 対 Apple
ii Nokia 対 OPPO、ACT 対 OPPO
iii Philips 対 Belkin、Panasonic 対 Oppo、Huawei 対 NETGEAR

