今こそ EU の SEP 規制を見直す好機 

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2024年9月24日

欧州委員会の新たな人事や、過度な規制と競争力に関する警告は、EU 指導者に再考を促すべきものです 

文責:Jacob Schindler 

EU の標準必須特許(SEP)規制に関する審議は、 送付されて以降、 昨年春に EU 理事会へと引き継がれて以来、進展が緩やかです。その間に、欧州の政策立案体制には大きな変化がありました。  

この法案を主導してきた域内市場担当委員の Thierry Breton 氏が、 退任し、 先週、Ursula von der Leyen 氏が 欧州委員会委員長としての 2 期目に向けた幹部チームを編成する中で、 その人事の一環として交代が行われました。欧州委員会の改編により、Stephane Séjourné 氏が、これまで Breton が担当していた域内市場総局(DG Grow)の職務を引き継ぐことになりました。  

Séjourné 氏は知財政策に精通しているとされていますが、物議を醸している SEP 規制の詳細についての立場は不明です。 

新たな執行機関の幹部ポストのもう 1 つは、欧州議会議員(MEP)として SEP 規制に反対の立場を示していたフィンランドの Henna Virkkunen 氏に与えられました。Virkkunen 氏は「技術的主権、安全保障および民主主義」分野の責任を担うことになります。  

この部門自体は SEP 規制に直接関与していませんが、本法案は、デジタル世界の基盤となるグローバルな接続規格の策定において、欧州が世界的リーダーシップを維持できるかどうかに重大な影響を及ぼす内容です。 

欧州議会での SEP 規制に関する議論の中で、Virkkunen 氏はこの提案について、標準必須特許権者に対する過度な規制負担であるとし、5G および 6G 技術が欧州の戦略的自律性とデジタル競争力の重要な要素であると指摘しました。  

この法案は現在理事会で審議中ですが、まだ統一された見解は示されていません。IAM による 報告書 によれば、理事会はこの提案に関して複数の疑問を抱いており、それに対する欧州委員会からの回答に満足していないとのことです。理事会の立場が固まり次第、欧州委員会は理事会および欧州議会と共に三者協議に参加する予定です。  

欧州委員会は引き続き SEP 規制の立法プロセスの中心にあり、幹部レベルでの慎重な姿勢は、本法案が成立するか否か、あるいはどのような形で成立するかに影響を及ぼす可能性があります。 

規制がイノベーションを阻害していると Draghi 報告書が警鐘を鳴らしています。 

先週、新たな執行チームを発表した von der Leyen 氏は、自身の政策課題の中で最重要項目の 1 つとして、 EU の競争力低下を挙げました 。氏は、その件に関する包括的な 報告書 を、域内の低成長を分析し、新たな競争力強化戦略を策定する任務を託されていたイタリアの前首相 Mario Draghi 氏から受け取ったばかりです。 

この報告書は、SEP 規制の見直しをさらに促す材料になるはずです。 

Draghi 氏が最初に、かつ最も深刻な問題として指摘したのは、先端技術分野における欧州と米国・中国との間に広がるイノベーション格差です。彼は特許出願件数を引き合いに出し、欧州が優秀な研究者や革新的なアイデアに恵まれている点を認めています。しかし、それらのアイデアを商業化するとなると事情は異なります。  

報告書では「欧州で事業拡大を目指すイノベーティブな企業は、あらゆる段階で一貫性のない制限的な規制によって妨げられている」と指摘されています。 

報告書によると、官僚的手続きの簡素化を目指す「ベター・レギュレーション」政策も効果は限定的だったとされています。EU 法は、欧州委員会からの提案から署名までに平均 19 ヵ月を要し、さらに加盟国による実施には追加の時間が必要です。「遅く分断された政策決定プロセス」は、急速な進展に追いつくのが困難な状況です。 

言い換えれば、善意で立案された政策であっても、先端技術分野における EU の利益に反する結果となりかねないのです。 

報告書では、知財を新規の革新的な市場参入者にとっての障壁ではなく、促進要因として正しく位置づけています。Draghi 氏は「EU は、他の主要なイノベーション先進地域と同様に発明者にとって魅力的な場とならなければならない」と述べ、加えて「発明が市場に届くまでの支援もさらに強化すべきである」と訴えています。 

報告書は全加盟国による単一特許(Unitary Patent)の導入を求め、複雑で断片化された各国の特許制度が「若い企業による単一市場の活用を妨げている」と主張しています。 

Draghi 氏はまた、世界をリードする欧州の研究大学群および研究開発機関の価値をさらに引き出す必要性を強調しています。報告書によれば、第一歩は「大学や研究機関における知的財産権管理上の官僚的な障壁を取り除くこと」です。この目的のため、報告書は、機関と研究者間の公正かつ透明なロイヤリティの分配に関する新しい青写真を採用することを提案しています。 

この報告書の自信に満ちたイノベーション推進の論調は、欧州は標準化技術の純粋な受け手となる運命にあるとして SEP の価値を引き下げるべきだと主張する一部の SEP 規制支持者による 根拠のない 嘆きとは、鮮やかな対照をなしています。  

規格におけるリーダーシップは、欧州にとって重要な競争優位性 

欧州が通信規格分野で主導的な地位を築いてきたことは、まさに成功の証といえます。米国や中国を見れば、世界で最も活気ある技術経済を率いる人々がこの事実をよく理解していることが分かります。 

中国の大手テクノロジー企業にとって、規格への貢献は戦略の中心です。これらの企業は、欧州の通信業界のリーダーによる研究開発投資が減少した場合、その穴を埋める存在となることが期待されます。  

米国では、規格が ますます重要なものとして認識されており、 経済安全保障の中核的要素と位置づけられています。バイデン政権は最近、政府全体で取り組む規格戦略のロードマップを発表し、米国の標準開発への関与を妨げるいかなる障害も国家安全保障上の脅威であると明言しました。 

競争力の強化と技術主権の維持に再び焦点を当てる欧州のリーダーは、この機会を活用して、SEP 規制の現行の形を見直すことができるかもしれません。それにより、欧州の強みを強化し、同盟国との連携を深め、競合相手への圧力を維持するような、洗練された規格アプローチを模索する機会となるでしょう。 

Jacob Schindler は、シズベルのシニアコンテンツ・戦略コミュニケーションマネージャです 

本記事は、個人として執筆されたものです。この記事に記載された見解は執筆者自身のものであり、必ずしもシズベルの見解を反映するものではありません。本内容は情報提供のみを目的としており、法的助言として解釈されるべきではありません。   

 


写真: NakNakNak 出典: Pixabay

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