イノベーションエコシステムにおけるバランスと明確性の回復

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2021年12月06日
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消費者は、充実した利便性、安全性、娯楽性といった多数の利点を提供するさまざまな非常に優れた製品を利用しています。このような製品の多くは、実際にはその製品を製造していない企業が開発した技術に基づいて製造されています。このような製品のメーカーは、他社が所有する技術によって生み出された利益を享受することには非常に満足している反面、多くの場合、その基盤となる技術を発明した企業に正当な対価を支払うことには否定的な態度を取っています。このため、消費者が購入し、所有したいと思う新製品を提供するイノベーションに水を差すような危機が生じています。イノベータが技術進歩への投資に対して正当な報酬を受け取れることを保証し、実施者がこれらのイノベーションの恩恵を社会に伝え続けられるように、競争条件を公平にすることは依然として重要な目標です。

この基本的な問題をめぐる最近の法整備や議論の一部は、The Licensing Journal 9 月号に掲載された記事「Restoring Balance and Clarity in Innovation Ecosystem( イノベーションエコシステムにおけるバランスと明確性の回復)」で取り上げられています。この記事は、シズベルの創業者 Roberto Dini、UCL の Sir Hugh Laddie Chair of Intellectual Property Law である Sir Robin Jacob、InterDigital のエグゼクティブバイスプレジデント兼最高ライセンス責任者 Eeva K. Hakoranta 氏、Kazehara の創業者兼 CEO であり、Ericsson の元最高知的財産責任者である Gustav Brismark 氏、Bird&Bird のパートナー Richard Vary 氏をはじめ、多数の知的財産の専門家が執筆しました。背景として、この記事は 2021 年 5 月に開催された LES International 年次会議で行われた同名のセッションから着想を得ています。

この記事では、まず、SEP に基づく特許訴訟の歴史を簡単に振り返ることで、訴訟差止命令(ASI)現象の状況を整理します。そして、規格に基づくイノベーションエコシステムをサポートする方法、FRAND 料率を設定する際に考慮すべき要因、仲裁による特許関連の紛争解決の利点という 3 つのトピックを取り上げます。

この記事は、すべての知的財産専門家、特に知的財産関連政策の策定や施行を担当する専門家にとって非常に有益な内容です。

主権維持から訴訟差止命令へ

まず、本稿では、システムやデバイス間の幅広い互換性を確保するために標準化が必要な携帯電話や Wi-Fi などの通信技術に関連する標準必須特許(SEP)のライセンスをめぐる判例を分析します。多くの製品が複数の司法管轄区域で販売されているため、グローバルなロイヤリティ料率を設定するという課題が最も重要です。Unwired Planet 対 Huawei の裁判において、英国の最高裁判所は、各国の裁判官がグローバルなロイヤリティ料率を設定できることを認めました。しかし、同裁判所は、技術導入企業に対し、グローバルな料率を認めるか、特許侵害訴訟の相手国である英国での製品販売の差止命令を受けるかのどちからを選択するよう提示することで、他の法域の主権を維持しました。

著者は、この判決が他の裁判所、特に中国の裁判所によって誤って解釈され、基になる特許侵害訴訟が存在しないにもかかわらず、他の法域の主権を保護する措置もないまま、グローバルな料率を設定していると指摘しています。実際、中国の裁判所はグローバルな料率を設定し、他の法域での訴訟を差し止める訴訟差止命令(ASI)を出した判例が複数あり、ASI を「自国産業の利益を守るための...手段」と位置付けています。

規格に基づくイノベーションエコシステムのサポート

著者は、「欧州委員会、競争当局、SSO、裁判所は、規格に基づくイノベーションのエコシステムを支援し、市場の歪みを回避する基本的な役割を担っている」と指摘しています。優先順位の一部は次のとおりです:

  • 一部の国、特に中国が、自国の産業に有利になるように競争条件を歪めていることを認識すること。例えば、低価格を支えることができるように産業に補助金を出したり、一般的に法的に正しいと考えられている他の決定とは矛盾していても、自国の産業を支持する法的判断を下したりしています。

  • ライセンス契約の締結を不必要に遅らせるライセンス取得の意思がない実施者は、FRAND ロイヤリティに加えて追加の損害賠償の対象となるべきであると認識すること。

  • ライセンシーが負う義務を明確にすることで、この明確性の欠如を悪用する実施者によるホールドアウト行動やその他の市場の歪曲を防止すること。

  • 「ロイヤリティを支払う意思がないライセンシー」の問題を効率的に解決する方法を検討すること。これは、一部の実施者がロイヤリティを支払う中で、他の実施者が単独で、あるいは共謀して、支払いを拒否することは不公平であり、反競争的であるからです。

このセクションの結論では、新製品や改良された製品を生み出す研究に見合った報酬を与えることの重要性が強調され、「この技術進歩の本質的な原動力を認識できない場合、イノベータが新しい研究に投資する意欲を阻害する可能性がある。あるいは、イノベータは標準化プロセスへの参加を避け、専有的な非公開のソリューションや企業秘密への回帰を決断する可能性がある」とまとめられています。

FRAND ロイヤリティ料率を設定する際の考慮事項

次に、著者は、FRAND ロイヤリティ料率を設定する際に考慮すべき要素に注目し、規格はイノベータだけではなく、実施者や消費者にも利益をもたらすものでなければならないと述べています。そのためには、「FRAND ロイヤリティ料率はあらゆる製品に含まれる特許機能の価値を反映すべきであり、生み出される価値が高いほど、ロイヤリティ料率も高く」なります。

特に注目されたのは、コンポーネントレベルのライセンス実施許諾を拒否する要請です。コンポーネントレベルのライセンスは、その技術が最終製品にもたらす価値ではなく、コンポーネントの価格に基づいてロイヤリティを計算する方法です。この理論に依拠し、自動車メーカーは、セルラー接続のロイヤリティは、セルラー技術が最終製品にもたらす価値ではなく、モバイルチップの価値に基づくべきだと主張してきました。当然、この主張は、セルラー機能が搭載されていない 8 万ドルの車を買う消費者はほとんどいないという事実を無視しています。

仲裁による解決

記事で取り組んだ最後の主題は、ロイヤルティ紛争を解決するための仲裁の要請でした。ロイヤリティ交渉は双方の複雑な問題を含んでいることを認識したうえで、著者は「交渉が失敗した場合、利用できる手段は訴訟だけなのか」と問いかけています。その問いへの答えとして、複数の司法管轄区域で高額の費用をかけて訴訟を起こすよりも、仲裁の方が迅速かつ低コストで、包括的な解決策になると結論付けています。

仲裁を促進するために、著者は複数の提案を行っています。その中には、標準化団体はその加盟団体間の仲裁を奨励すべきであり、競争当局は 「特許権者と実施者の双方に仲裁を求める」公正な義務を負わせるべきであるといった内容があります。最後に、著者は各国の裁判官に対して仲裁を提言するように要請し、「当事者が仲裁に入ることを拒否した場合、ライセンス取得の意思がない実施者であることの証拠と見なされ、差止命令や追加の損害賠償によって対処されるべきである」と結論付けています。

全体として、この記事は、イノベータに価値を還元することの重要性と、消費者が求め、経済が必要とする次世代の製品を提供するための新たな研究への投資を阻害するおそれのある「効率的侵害」を防止することの重要性を強調しています。このような事態を避けるため、当局は SEP ライセンス交渉において明確な指針を示し、ASI のような手続的訴訟を起こさないように当事者を説得し、仲裁を促す必要があります。

詳細な考察については、以下の 2021 年 5 月に開催された LES International 年次会議のパネルディスカッション「Restoring Balance and Clarity in Innovation Ecosystem(イノベーションエコシステムにおけるバランスと明確性の回復)」の抜粋もご覧ください。

Gustav Brismark 氏 – ROI to the Innovators is Essential(イノベータにとって重要な ROI)
Roberto Dini – So-called Efficient Infringement Discourages Innovators(いわゆる効率的侵害がイノベータの意欲を阻害する)
Eeva Hakoranta 氏 – We Can’t Afford Hold Out Behavior(ホールドアウト行為を許容しない)
Richard Vary 氏 – 自動車産業向けに策定されたライセンス実施許諾規則が他の成功市場を破壊することに
Sir Robin Jacob 氏 – Arbitration is the Best Solution(仲裁こそが最善の解決策)

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