インド裁判所、直近の判決でホールドアウトに打撃を与える

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2025年9月12日

シズベルの独自分析。先日のデリー高等裁判所の命令で明らかになった、SEP 権者が暫定的な救済を得るうえで必要なこととは。Singh & Singh シニアパートナーの Ashutosh Kumar 氏が解説

文責:Ashutosh Kumar 氏 

この夏、デリー高等裁判所での 2 つの判決が FRAND(公正、合理的、非差別的)界で大きな話題となりました。SEP 侵害で告発された企業に暫定的な保証金の支払いを命じたのです。 

近年、インドでの標準必須特許(SEP)紛争において、暫定命令の文脈で「pro-tem」という表現が多用されていますが、このような命令は、SEP 訴訟をはじめとするさまざまな紛争で長年にわたりインドの裁判所で発せられています。これはラテン語の「Pro tempore」に由来し、単に「暫定」を意味しています。裁判所が事例の実体を検討する時間を十分に確保できるまで、当事者間の公平性を保つために発せられる命令となります。  

欧州連合司法裁判所(CJEU)が Huawei 対 ZTE 訴訟で FRAND の枠組みを確立する前から、インドの裁判所では SEP 紛争を扱う際に同様の枠組みを用いて対応してきました。しかし、当時は正式な枠組みとして扱われておらず、正式な扱いになったのは、2023 年に Intex 対 Ericsson 訴訟でデリー高等裁判所が FRAND プロトコルを策定したときでした。  

2014 年の Ericsson 対 Xiaomi 訴訟のときに初めてインドの SEP 紛争で「pro-tem」という表現が使用されました。デリー高等裁判所の Division Bench(ディビジョンベンチ)は、インドで販売されたデバイス 1 台につき 100 INR(2014 年時点で約 1.5 米ドル)を裁判所に預託するよう Xiaomi に命じました。その後、暫定(pro-tem)命令 はNokia 対 OppoPhilips 対 OnePlusPhilips 対 XiaomiPhilips 対 Vivo などのさまざまな SEP 紛争で発せられました。 

判決により暫定的な救済措置の基準が明確化 

CCAI 対 Ace Technologies および Dolby 対 Lava の 2 つの訴訟に関する最近の判決で、暫定預託命令を出す法的基準が明確化されました。  

慣例的に、インド国内の民事訴訟法では、インドの裁判所が暫定命令の発出を検討する場合、古典的な 3 要素テストを用いることが義務付けられています。その際には、以下を考慮します。  

  1. 一応の自明性(prima facie)  

  2. 便宜上のバランス 

  3. 回復不能な損害 

このテストを特許紛争に適用する場合、さまざまな要因の影響を受けますが、最も重要なのは時間の影響です。  

複雑な技術的問題で仮差し止め命令を出す場合は、司法判断にさらに多くの時間が必要になります。インドの裁判官人口比率は、米国、英国、EU などに比べ非常に低く、Intex 対 Ericsson の判決で裁判所が認めている事実です。実施者の立場から見ると、インド裁判所での時間不足は、訴訟戦略的に好都合な要素となり、場合によってはホールドアウトの口実にもなります。このようなことが、インドでのあらゆる SEP 訴訟で散見されました。  

さまざまな SEP 訴訟でホールドアウト戦略を展開する実施者は、裁判所は暫定預託命令を出す場合にも仮差し止めの申し立てと同じ方法で 3 要素テストを適用する必要があると主張していました。たとえば、関連する SEP の必須性、有効性、侵害などの問題について裁判所が「一応の自明性」の判定が得られるまで暫定預託命令は出せないという主張です。また、比較可能なライセンス契約を詳しく検討しない限り、暫定預託命令は成立しないという主張も挙がりました。  

先日下された Dolby 対 Lava の判決で、裁判所は Intex 対 Ericsson の判決で定められた FRAND プロトコルを根拠にこれらの主張を退け、次のことを繰り返し述べました。「当事者間の公平性を保つための一時的な取り決めとして、事例の実体を詳細に審査されていなくても暫定命令を出せる権限が裁判所にあることは明白である」   

さらに裁判所は、比較可能なライセンス契約を最初に検討すべきという主張を退け、「暫定預託命令には、仮差し止め命令で必要とされるような事例の実体に関する詳細な審査は必要ない」ことを明言しました。また、「特許権者は、交渉の段階または暫定預託金の決定段階で第三者とのライセンス契約を実施者に提供する必要はない」という判断も示しました。 

同様に CCAI 対 ACE 訴訟でも、裁判所は訴訟手続きに関する被告の主張をすべて却下し、裁判所の有する管轄権を発動させて暫定預託命令を発しました。  

これらの判決により、SEP 紛争において、司法判断に要する時間の不足によって生じる訴訟手続きの問題や実務上の問題を利用して実施者がホールドアウト戦略を展開することができなくなりました。  

巨額の預託命令も実施可能 

最近の命令では、Ace Technologies に 29 億 INR(3,400 万 ドル)、Lava に 2 億 INR(230 万ドル)の預託が命じられました。しかし、過去には、裁判所がさらに巨額の預託を要求していた事例もあります。 

Philips 対 Xiaomi 訴訟では、デリー高等裁判所が審問の初日に Xiaomi に対して 100 億 INR(2020 年当時で約 1 億 3,600万ドル)を口座に用意しておくよう命じました。その後、裁判所は Xiaomi にインドの銀行から当該金額の保証金をインドの銀行から預託するよう指示しました。  後に Xiaomi は Philips との間で和解が成立し、この問題は解決しました。通常、実施者が暫定預託を命じられた場合、和解に終わるのが一般的です。  

裁判所、ホールドアウト戦略に懸念 

インド裁判所は SEP 紛争でのホールドアウトに懸念を示し、実施者に FRAND プロトコルを確実に遵守させることでこの問題に対処しようと努めてきました。Dolby 対 Lava 訴訟は、実施者のホールドアウトが顕在化した最新事例の 1 つで、裁判所はこれについて次のような見解を述べています。 

当事者間で行われたやり取りに関する前述の分析に基づき私が一見したところでは、Lava の行為は「特許のホールドアウト」に該当します。したがって、欧州司法裁判所の Huawei 対 ZTE(前出)判決で定められ、Intex 対 Ericsson(前出)の Division Bench により踏襲された FRAND プロトコルの観点から、Lava はライセンス取得の意思がない実施者とみなされます。

裁判所はさらに以下のような判決を下しました。 

Lava は FRAND プロトコルにより実施者に課されている義務を遵守せず、FRAND ライセンス取得に向けた交渉および契約締結、ならびに対案の提示を行う意思が示されていません。6 年間にわたり行われた交渉の間、Lava は Dolby の技術を使用していないことを示す証拠を一切提供することなく、Dolby に詳細や情報を求め続けました。Lava の戦略は単に交渉を遅らせることでした。

そして次のように述べました。 

6 年間の交渉の中で、Lava がこれらの理由で訴訟対象の特許の有効性に疑問を呈したことは一度もありません。Lava は時折、訴訟対象の特許に関する技術的詳細や情報を提供するよう Dolby に求めており、それらは Dolby から Lava に正式に提供されていました。Dolby から提供された技術情報の妥当性について、Lava が疑問を呈したことはありません。Lava が現段階で有効性の問題を取り上げているのは、預託命令を回避し、現行の訴訟の判決を遅らせるだけのためであることは明白です。

裁判所は、Ericsson 対 Lava 訴訟や Ericsson 対 Intex 訴訟でも同様の見解を示しています。 

暫定的な救済を求める特許権者は、インドで定められた FRAND プロトコルに完全に準拠する必要があります。これは、Huawei 対 ZTE 訴訟で CJEU が規定したものと非常によく似ています。訴訟が始まる前に、FRAND プロトコルで定められている義務を原告側が履行していることを確認しておくと良いでしょう。   

Ashutosh Kumar はデリーの Singh Law Firm LLP のシニアパートナーです 

この記事に記載された見解は執筆者自身のものであり、必ずしもシズベルの見解を反映するものではありません。本内容は情報提供のみを目的としており、法的助言として解釈されるべきではありません。

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