日本では特許価値創造の機会が増大
シズベルジャパン株式会社の代表取締役に清水克則が就任しました。今回は、長年にわたるパテントプール業界での彼のキャリアや、日本企業が「特許価値」に言及するようになってきた背景について説明します。
4 月上旬、シズベルは、日本法人(子会社)の新たな代表取締役に清水克則が就任することを発表しました。就任前は、Mitsubishi Electric の知的財産および法務部門で約 30 年間勤務していました。現在、Mitsubishi Electric はシズベルの主要パートナーとして、5G マルチモード、セルラー IoT、Wi-Fi 6 のパテントプールに参加しています。
今回、ルクセンブルクとバルセロナにあるシズベル拠点の訪問後に、Sisvel Insights のインタビューに応じていただきました。そして、東京の拠点から、Mitsubishi Electric での勤務時代のことや日本での交渉活動、未実施特許の価値を最大化することへの挑戦などについて語っていただきました。
先日までシズベルのバルセロナ拠点を訪問していた清水克則
自身の経歴と、知的財産の分野に携わった経緯を教えてください。
1996 年、Mitsubishi Electric の法務部からキャリアがスタートしました。大学では法律を学び、キャリアの最初の 6 年間は契約審査や訴訟などの問題に取り組んでいました。忙しかったです。当時、日本では製造物責任法が施行されたばかりで、忘れられない訴訟がたくさんありました。
2002 年、法律とは異なるライセンス部門に異動しました。このとき初めて知的財産の世界に足を踏み入れました。新たな挑戦で刺激的でしたが、当時は法 務部でのメインキャリアの構築を補完するものとして考えていました。ところが、ライセンス供与の仕事がとても面白く、知的財産の分野を自分のメインキャリアパスにしようとすぐに考えるようになりました。その2年後、私は工学部の修士課程で夜間と週末に勉強していました。知的財産はテクノロジーと法律を組み合わせたものです。法律は大学で学んだので、知的財産についてテクノロジーの観点から学びたいと思いました。
どのようなライセンスプロジェクトに取り組んでいるときに「非常に面白い」と思ったのですか?
パテントプールです!当時、私は Mitsubishi Electric の 3G 携帯電話技術に関するパテントプールを構築する取り組みを主導していました。Siemens、KPN、LG Electronics など、世界中の企業と連携して取り組めたのは素晴らしい経験でした。このときにさまざまな人と出会い、今でも友人や同僚として関係が続いています。現在シズベルにいる人もいます。
やりがいのあるプロジェクトで私たち全員が多くのことを学びました。先に MPEG プールがマルチメディア分野で実現したので、上手くいった部分をセルラー向けに再現できないかと考えていました。大手企業の多くがプールライセンスのルートを選択しなかったので大変でしたが、プログラムを立ち上げてライセンス収益を生み出し、会社に貢献することができました。
国際的な仕事をすることが自身にとって大きな魅力だったようですね。
はい。3G プログラムの開始直後、私はロンドン郊外のアクスブリッジにある Mitsubishi Electric の欧州の子会社に海外駐在員として異動しました。しかし、それは同時に、知的 財産の任務を断念することでもあり、法律とコンプライアンスの問題に再び力を注ぐことになったのです。その後 5 年間、英国で家族との生活を満喫し、出張や休暇で出かけた地域で世界旅行する機会もたくさん得られました。しかし、2012 年、転機が訪れ、東京に戻り再び知的財産の部門で働くことになりました。
残りの時間の大部分は、コーポレートライセンス事業本部で Mitsubishi Electric とともに、侵害訴訟の処理、ライセンス契約の交渉、知的財産戦略のサポートなどに力を注ぐことができました。パテントプールにも引き続き従事しました。また、機会に恵まれて、デジタルテレビの分野で確立された日本のパテントプール「ULDAGE」の会長も務めさせていただきました。
Mitsubishi Electric はいつもプールの強力なサポーターでした。その戦略の背後にあるものは何ですか?
ほとんどのプログラムで、私たちはこのテクノロジーに貴重な貢献をしてきましたが、特に規模の大きな特許権者がいる状況ではありませんでした。そのため、潜在的なライセンシーの数が多いと、二社間交渉を行うのが困難になることがあります。パテントプールを利用すると、小規模な特許権者は、ライセンス収益をより効率的に生み出せるようになります。
また、他の特許権者と緊密に協力し、ライセンスチームとの個人的なパイプも良好に築けたので、非常にプラスになったと思いました。製造業者としての最優先事項は、常に製品ラインを守ることです。IP の世界は狭く、自分の分野の特許保有者と直接のチャネルがあれば、突然の訴訟のリスクが軽減され、友好的な取引に達するのがはるかに容易になりま す。
Sisvel Japan の代表取締役としてパテントプールの世界に本格的に参入しようと思ったきっかけは何ですか?
さまざまな要素がありました。Mitsubishi Electric は、5G マルチモード、セルラー IoT、Wi-Fi 6 など、多くのシズベルプールに関与しているので、この会社とは約 10 年間一緒に仕事をしてきました。人や文化が好きであることが要素として一番大きいと思います。一緒に仕事をしてきたシズベルの仲間は柔軟性、創造性、活気があり、私はいつも感心していました。私も同じぐらい活発に自分の仕事に取り組んでみようという気持ちになれるので、ありがたいと思っています。日本の大企業では、そのような仕事の仕方は必ずしも簡単ではありません。ですので、機敏でスピード感ある組織の一員になれることがうれしいのです。
日本でライセンス契約を行う際に知っておくべきことは何ですか?
日本のライセンス契約が他国とそれほど違うとは思いません。どの国の特許ライセンス担当者も、コミュニケーションは世界共通です。人と人のつながりを確立し、相手の立場を理解し、信頼を築くことなどが常に重要です。
先ほども申し上げたように、日本の大手企業は非常に規模が大きく、複雑な官僚機構を有しています。ロイヤリティを支払わなければならない場合、通常は知的財産部門やライセンス部門が決定権を持つわけではありません。つまり、交渉相手は、ライセンス契約を締結するために、事業部門(場合によっては 5~6 つの事業部門)を説得する必要があるのです。本当の関門は、ライセンス交渉ではなく、社内協議にあるのです。
日本企業は特許価値創造へのア プローチをどのように進化させてきたのでしょうか?
製造業にとって最優先事項は事業の防衛であるため、IP 資産の潜在能力を最大限に引き出す余地はまだまだ大きいと考えています。
興味深いことに、政府は企業に知的財産の価値への理解を促しています。先日、コーポレートガバナンス・コードが変更され、日本企業は自社の知的財産や無形資産に関する価値創造ストーリーを構築することが奨励されています。このようなことが重視されるということは、多くの企業が現在そのようなストーリーを持っていないことを示唆しています。
ガイドラインでは、企業に対して、知的財産とキャッシュフローの短期・中期・長期的な因果関係を、定性的および定量的な説明と併せて示すことを求めています。
つまり、企業の特許がライセンス供与などで収益を直接的に生み出していない場合、経営陣は、製品ラインを保護するかどうかにかかわらず、特定の技術や他の説明から競争相手を除外して、価値の創造方法に関するストーリーを考え出す必要があります。
この取り組みは、日本のポートフォリオ内で数多くの未実施特許を洗い出せる可能性を秘めています。パンドラの箱を開くようなものと言えるでしょう。見つかったものの中には、価値がないものもあれば、本当の価値を有するものもあるでしょう。こうした状況は、特許権者が発明の潜在能力を解き放つことを可能にする、ライセンス契約やその他の取引の新たな機会を生み出すでしょう。私としては、シズベルがどのように関与できるか考えていきたいと思います。
