韓国のイノベーション変革から得たライセンス供与の教訓

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2025年8月21日

一から特許戦略を構築するには、大胆な決定と長期的な見通しが必要(Injoon Song 氏談)

5 月、シズベルは Injoon Song 氏を韓国エグゼクティブアドバイザーに任命したことを発表しました。同氏は、韓国のライセンス市場で最も認められている人物の一人で、これまでに LG Electronics をはじめ、直近では SK テレコムで上級管理職を務めてきました。ソウルに拠点を置く Injoon 氏は、特許権者とライセンシーの重要なパートナーシップを結ぶ市場で、シズベルの事業をあらゆる面から指揮しています。

在任 3 ヵ月後の Sisvel Insights では、Injoon 氏の経歴について伺い、ライセンシーの立場で主要な契約交渉を行なってきたこと、重要な戦略的特許買収を主導してきたこと、複数の特許プールの構築において主導的な役割を担ってきたことなどを同氏に語っていただきました。今回の対談では、新規市場参入者が直面している特許の問題について解説していただき、韓国企業と知的財産権契約を結ぶためのアドバイスを伺います。

Injoong

Injoon Song 氏 - 韓国エグゼクティブアドバイザー

何がきっかけで特許の業界に入ったのですか?

大学では電子工学を専攻し、卒業後は LG グループの子会社である LG Semicon から企業奨学金を得ました。

当初、私はソフトウェアプログラマーとしてビデオエンジニアリング部門に配属されました。しかし、電子工学を学んでいたのに自分の専攻を活かせず不満でした。そこで、人事部に行って「エンジニアリングは私には向いていません。どうしたらよいかわかりません。IP 部門はどうでしょうか?」と伝えました。こうして私は IP 部門に配属されました。特許については何も知らなかったので、一から訴訟の流れを勉強しました。3 年間、韓国と米国の特許庁に進む前段階となる特許訴訟にあらゆる面から深く携わりました。

当時、大きな変化がありました。アジア金融危機のさなか、政府は韓国の 3 大半導体企業のうちの 2 社を合併する決定を下したのです。それが、LG と Hyundai です。今日では SK Hynix として知られています。

合併後まもなく、私は LG Electronics に移りました。これが私の「ライセンス」キャリアの始まりです。

LG Electronics のライセンス部門に配属されたときの課題と目的は?

2000 年からライセンス業務に携わりました。当時、GSM は欧州でしか普及していなかったのですが、Samsung はすでに欧州の市場に参入していました。市場の主要企業は Motorola、Nokia、Ericsson でした。そこで LG は、標準必須特許のない市場に参入することにしました。それは、すべての主要権利者とロイヤリティ協議を行うということでした。各会社が要求したロイヤリティの割合を単純に合計してみると、総収入の 30% 程度になりました。一年ももたないかもしれないと思いました。

当時は仕事量が多く忙しかったのですが、振り返ってみるといい経験だったと思います。多くのことを学ぶことができました。大規模なチームはなかったので、自分たちで締結した主要なライセンス契約にはすべて自ら直接関与していきました。死にもの狂いで働きました。当時から市場に携わっている人はもうそれほど多くはいません。

これらの問題に直面したとき、LG はどのような IP 戦略を取り入れたのですか?やらなければならないことに対して、どのようにして経営陣から賛同を得たのですか?

最もやらなければならない重要なことの 1 つは、自社のポートフォリオを構築することでした。今となっては、大規模な R&D 投資のおかげで、LG Electronics は世界屈指の特許権保有企業となりました。しかし、当時は外部から特許を取得するしかありませんでした。「特許を持たない」と「小規模でもポートフォリオがある」では大きく違います。ゼロから始める場合、こうした取引形態があるかどうかで大きく変わります。

当時、社内では特許購入にかなり抵抗がありました。経営陣に直接相談し、こうした取引形態が必要であることを説明する必要がありました。均一的かつ大規模な取引形態を自社で用意できれば、会社は 10 桁に上るロイヤリティの支払いを節約できると見積もりました。この特殊な取引形態は、社内で強い反対があったにもかかわらず、最終的に経営陣によって承認されました。

交渉ですぐに利益をもたらし、資金を節約できる特許を見つけることが任務だったとのことですが、そのような資産の見つけ方はどのようにして習得したのですか?

その質問は、一言で答えられるものではありません。資質的なものもあると思います。技術的なバックグラウンドがあるわけでもなく、電子工学の学位とも関係ありません。実務を通じて学び、数多くの契約に携わりながら徐々にさまざまなことが見えてきたのです。それは一種の強制学習と言えます。やるしかなかったのです。

優れた特許を見つけるという点に関しては、後から振り返って「あのときの特許取得が正解だった」と言うのは簡単です。しかし、そこに至るまでに多くの失敗もしているのです。果敢に挑まなければ何も得られません。購入にしても、販売にしても、ライセンス供与にしても、市場には非常に多くの機会があります。困難であろうと、何度でも電話をかけ、経営陣や同僚を説得しなければなりません。最終的には、誰かが決断しなければならないのです。

重要なこととして、もう一つ覚えておいてください。特許の価値は時間に依存します。昨日まで価値のなかった特許が、今日、非常に価値のある特許になることがあります。

2005 年に LG Electronics から SK Telecom に移りました。そのときのライセンス状況について伺います。

LG Electronics のライセンスチームで 5 年間働き、私は疲れ果てていました。会社は、私を 4 年間パリに派遣することを決定しました。私は不満だったので、SK Telecom に転職する道を選びました。転職の初日、新しい上司に呼ばれて、私がライセンスチームを率いるよう伝えられました。チームは私を含め 3 人。1 人は工学のバックグラウンドがあり、もう 1 人は米国法のバックグラウンドがありました。そして、上司は「工学と法律のバックグラウンドを備えたチームです。収益獲得に向け出発です」と言いました。韓国以外では特許はなく、本当にゼロからのスタートでした。私は経営陣に、質の高いポートフォリオを社内で構築するには最低 7~8 年かかると報告しました。しかし、待つこともできない状況でした。大学やスタートアップ企業と協力して、特許の購入や開発を同時並行で行う計画が必要でした。Wilus と共同で行った Wi-Fi プロジェクトは、その一例です。私は SK Telecom で勤務して 19 年になりますが、今では同社もほぼすべての通信関連のパテントプールに参加し、膨大なライセンス収益をあげています。間違いなく、SK Telecom は IP 収益化の分野で世界有数の通信事業者となりました。このような成果に貢献できたことを誇りに思います。

Wilus との提携にはどのような経緯があったのですか?

はい。それは非常に幸運な経験でした。2014 年頃、LG Electronics を退社したばかりの Jin Sam Kwak 氏(以下「Sam」)に出会ったのです。彼には野心があったものの、資金が無く、周囲には 3~4 人のエンジニアしかいませんでした。私たちは、ブレーンストーミングのセッションを行い、Wi-Fi プロジェクトを始めました。当時、市場において、Wi-Fi に対してはロイヤリティフリーという認識がありました。大手ライセンサーが携帯電話の大型ライセンス契約を行う際に、無料のアドインとして Wi-Fi ポートフォリオを提供する傾向があったからです。

それでも、この分野でポートフォリオ構築に向け提携することにしました。Sam はいい奴で、一緒に何か違うことができるのではないかと思いました。Wi-Fi 収益化には不確実性がありました。しかし、私は経営陣に対して、セルラー SEP 市場は飽和状態にあり、投資リターンは小さいと伝えました。SK Telecom のようなリソースの限られた企業にとっては、Wi-Fi の方がはるかにメリットがあったからです。また、5G 時代には Wi-Fi がより重要な役割を担うようになるのではないかと思ったのです。そして今、実際にそのようになりました。Wi-Fi ライセンスの未来は明るいと言えます。

あなたのリーダーシップで SK Telecom が推し進める IP 戦略はパテントプールを中心としたものですが、それはなぜですか?

LG や Samsung などの大手メーカーで勤務していたら、戦略は違っていたかもしれません。通信事業者であれば、市場では中立的な立場になるので、公平なソリューションを見つけなければなりません。収益をあげるだけでなく、ビジネス関係を強化し、良い評判を維持する必要があります。これらの要素をすべて考慮すると、パテントプールへの参加は、内部から人を説得し、市場にポジティブなイメージを与えることができる良い方法と言えます。さらに、パテントプールがうまくいけば、1 回限りの契約ではなく、安定した収益を継続的に生み出すことができます。

パテントプールへの参加を最大限に活かすうえで、中小企業や新興企業へのアドバイスを伺います。確実に利益を図るにはどうしたらよいですか?

特許権者として、私は常にパテントプールの促進プロセスや、パテントプールの立ち上げ前後に行われる重要決定にすべて深く関与するようにしました。私は、他のプールメンバーや管理者との良好な関係を築くことに重きを置いています。重要なことは「障害物にならないようにする」ことです。かつて、私は「Why Not?(なぜ?)」のあだ名が付けられていました。パテントプールの構築に 2~3 年かかることがあります。新しいアイデアに抵抗があったり、会社で問題が注視されて進捗が大きく遅れたりすることが少なくないからです。私の「なぜ?」のアプローチは、Mattia やシズベルチームだけでなく、他の多くの特許権者に高く評価されていたと思います。

IP に携わる人の多くは、目立つことや波風を立てることに消極的ですが、あなたは違った角度から自身のキャリアに向き合ってきたようですね。

そのとおりです。アジア系企業は、会社構造や業務プロセスにおいて、いまだに階層的なところがあると思います。私は、そういうところが苦手です。私は、個人的な関係を良好に保ちながら、職場での議論はきちんとできることが必要だと思います。もちろん、同僚や経営陣に対する礼儀や敬意は常に弁えます。しかし、本当に重要だと思う問題があれば、私は声を上げることをためらいません。物事を成し遂げるためには、如才なく物事の状況に対応できる必要があります。他社と契約するときも同じです。契約はいつかは期限が切れますが、個人的な関係は続くのです。

シズベルに入社したきっかけは何ですか?今のところいかがですか?

簡単な決断ではありませんでした。韓国市場にいた私としては、新しい任務に就くにはキャリア的にかなり出遅れています。しかも、国際的な企業です。しかし、ここにきて 3 ヵ月になりますが、9 割方快適です。私はシズベルのスタイルが気に入っています。社風が私にとって大きな魅力でした。シズベルはすでに韓国の主要企業と非常に強力な関係を築いていました。そして、私自身、シズベルが取り組んでいる多くのプロジェクトに価値を加えることができると思っています。

IP 交渉者が韓国市場について理解しておくべき最も重要なことは何ですか?

韓国企業の IP 部門にいる主要幹部は、多くが同じ会社に長らく従事しているため、韓国市場は独特と言えます。つまり、意思決定が非常に慎重です。後に自分自身に及ぶ影響のことを考えなければならないからです。これが、ためらいや遅れの原因になります。契約相手が意思決定プロセスを遂行できるようにするには、こうしたダイナミクスを理解しておく必要があります。

また、外国企業にとって、東アジアの主要市場はすべて独特であることを理解しておくことも非常に重要です。韓国でも、日本でも、中国でも、IP 契約を行う場合は、各国に合わせた非常に具体的な戦略が必要になります。

最後になりますが…

いつも週末はどのように過ごしていますか?

週末は家族との時間を大事にしています。特に 10 歳の「娘」(プードル犬)との時間は至福です。韓国ではゴルフが人気ですが、私の場合は、さまざまな娯楽より家族と一緒に過ごす方がいいですね。

ソウルで 1 日自由に過ごせるとしたら、お勧めの見どころやアクティビティはありますか?

外国人観光客でしたら、夜に漢江沿いをウォーキング、ランニング、サイクリングするのがおすすめです。あるいは、腰を下ろして韓国風チキンと一緒にビールを飲むのも良いかもしれません。漢江の川辺ほど安全できれいなところは世界中どこにもありませんよ。

休暇中によく行く場所はありますか?

先程の話のとおり、休みの日は家にいてのんびりしたい派です。でも、たまに一人旅を楽しむこともあります。妻の許可が必要ですが。国内なら、海に面した釜山のような都市が好きです。海外なら、ベトナムやラオスなど東南アジアの国が好きです。

これまでで最も印象に残っているライブパフォーマンスは何ですか?

最近、韓国では激しい政治的変化に見舞われています。私自身は中道左派なのですが、それは政党としてではなく、子供たちの将来の問題としてそのように考えています。

好きなテレビドラマは何ですか?

連続もののテレビ番組はあまり好きではありません。最近は古い映画をよく鑑賞しています。韓国映画も外国映画も見ます。おすすめの韓国映画は、2001 年の『Failan』です。本当に素晴らしい作品です。

これまでに受けた最高の仕事上のアドバイスは何ですか?

これまでの仕事で経験してきたことを振り返ってみると、仕事で数多くの問題に直面してきましたが、これらを乗り越えることで成長できたと思います。そうした観点から「やらなきゃならないなら、楽しんで」と言えます。

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