InterDigital 対 Lenovo の控訴審判決から学ぶ FRAND の教訓
今回の英国 FRAND 判決には、過去の画期的判例からの重要な流れが見られます
文責:Donald Chan
先月、イングランド・ウェールズ控訴裁判所が、InterDigital 対 Lenovo訴訟に判決を下しました。これは、英国裁判所がグローバル FRAND 料率を設定した 3 訴訟の 1 つです。控訴審の判断では、双方の当事者がそれぞれ成果を見いだしました。InterDigital は総支払額が 5,500 万ドル増加したことを歓迎すると同時に、2007 年まで遡った過去のすべての売上に対して利息付きで支払うものとする判決を高く評価しました。一方、Lenovo は単位当たり 0.225 ドルのロイヤリティに不満がないことを表明し、将来的なライセンスに対しても同額を提示することを発表しました。
どちらの側がより有利な結果を得たかについて、広く議論が交わされてきました。より重要なのは、FRAND 訴訟に対する英国のアプローチからどのような教訓が得られるか、そしてそれがセルラー SEP のライセンス実務にどのような影響を与えるかという点です。
以下は、私自身がこの判決から得た 5 つのポイントです。
1.英国における FRAND の決定は、科学というよりもむしろ「芸術」である。
この判決は、英国の裁判所において FRAND 料率の設 定が厳密な科学ではないことを改めて示しました。むしろ、多くの場合、当事者双方の主張の中間点を見出すプロセスです。以下は、控訴審において Birss 裁判官が、調整前のロイヤリティ料率 $0.30 に至るまでの過程を説明した内容です。
「…我々は $0.24 がやや低すぎると理解しています。また、InterDigital の主張する $0.61 またはそれに近い額があまりに高すぎるというのも、裁判官の判断から明らかです。0.30 ドルは、LG 2017 の額から適度に引き上げた結果、妥当な額として 2 番目に高い額となります」
同様の手法により、調整係数 0.75 が算出され、結果として 1 ユニット当たり $0.225 のロイヤリティ料率となりました。
これは、2017 年の Unwired Planet の判決で Birss 裁判官が 4G の標準必須特許のスタックを決定したときの手法を彷彿させます。Huawei の提示した 1,812 は「非常に高すぎる」、Unwired Planet の 355 は「非常に低すぎる」として、裁判所は 1,812 を半分の 906 にし、355 を 2 倍の 710 にした上で、それぞれの平均を取り、端数を調整しました。(「その差は 1 対 800 です。総合的に見て、800 という数値は妥当であり、私の判断では適切な数値です。」)
2.ロイヤリティ料率とは、あなたが「言う」額ではなく、実際に「支払う」額である。
裁判所は今回も、比較可能な契約間でロイヤリティ料率を比較する方法として「単純分解法」を認めました。これは、支払総額を対象となる過去および将来のユニット数で割るという方法です 。第一審判決でも、以下のように述べられています。「FRAND 料率は、ライセンシーとライセンサーの間でやり取りされる金額(およびその他の利益)に焦点を当てるべきであり、支払いや受領額に関する一方当事者の内部的な正当化は、FRAND に関係せず、影響を及ぼすべきでもありません。」将来の訴訟当事者にとっては、比較可能な契約がこの単純な基準でどのように評価されるかを十分に考慮することが重要です。これは、当該契約が各当事者の会計上でどのように扱われているかにかかわらず当てはまります。
3.強力な比較可能な証拠が極めて重要である。
英国の裁判所は、FRAND 訴訟において引き続き比較分析を重視しており、本判決でも本件で提案されたトップダウン法を退けました。InterDigital は、2 つあるトップダウン方式のうち簡易的な手法を考慮すべきであると主張しましたが、裁判所を説得するには至らず、Arnold 控訴裁判官は第一審判決を支持し、比較分析の方が「FRAND を推定するうえで遥かに信頼性が高い根拠」であると認めました。
このことは、英国での FRAND 訴訟を検討する当事者に対し、トップダウン方式によるロイヤリティ計算に過度に依存せず、提示するライセンス条件に強力な比較可能な契約の証拠を添えるべきであることを示唆しています。
4.過去販売分に対する過度な割引は FRAND ではない。
裁判所は、ホールドアウトに対抗する立場を明確にし、Lenovo に対し過去の売上全額の支払いを要求し、課せられた利息の免除や減額を拒否しました。この判決は、実施者は、遅延について、その遅延が実施者の責任であるかどうかに関わらず、遅延によ る利益を得るべきではないと述べています。裁判官らはまた、ライセンス交渉の長期化が、SEP 保有者に不釣り合いな不利益をもたらす傾向があることも認めました。
ロイヤリティ料率を第一審よりも引き上げたうえで、裁判官らは、比較可能な契約において過去販売分に対して適用された大幅な割引(業界の慣行)が InterDigital や他の SEP 権者に強制されたものであり、FRAND に反すると判断しました。裁判官らは、この状況が「市場全体の歪みであり、裁判所が是正すべきものである」とした第一審裁判官の見解に同意しました。
5.FRAND 料率の決定においては、当事者の意思表示は(少なくとも本件においては)関係ない。
裁判所は、今回のロイヤリティ料率の引き上げにより、InterDigital が「ライセンス提供に消極的だった」とする第一審判決の認定に疑義が生じたと認めました。しかし、控訴裁判所は、この点には深く言及しませんでした。裁判所は、過去に当事者が示した意思の有無は、ロイヤリティ料率の決定には無関係であると判断しました。「FRAND に該当する金額はいくらか、それだけが問題なのです。今後最高裁への上告がなければ、この問題はすでに解決済みです」と、Arnold 裁判官は述べました。
しかし、このアプローチは、InterDigital が最初に提出した訴状の構成に起因しています。同社は裁判所に対し、1)自社の提案が FRAND であるか否か、2)そうでない場合、どの条件が FRAND に該当するか、の判断を求めました。そのため控訴裁判所は、仮定的な状況においてライセンス取得の意思がある実施者とライセンス提供の意思がある特許権者が合意する条件を探るという、包 括的なアプローチを採用しました。
将来、相手方の行動を裁判所に考慮してもらいたいと考える原告は、この点に留意し、それに応じた訴状の構成を行うと予想されます。
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今回の控訴審判決により、英国は FRAND 訴訟において独自のアプローチをさらに発展させつつあります。もし今回の結果に対する両当事者の声明が本心を反映しているのであれば、今後も同様の訴訟が英国で展開される可能性が高いでしょう。
Donald Chan はシズベルの FRAND・ロイヤリティ担当ディレクターです。
本記事は、個人として執筆されたものです。この記事に記載された見解は執筆者自身のものであり、必ずしもシズベルの見解を反映するものではありません。本内容は情報提供のみを目的としており、法的助言として解釈されるべきではありません。
