欧州は米国の特許論争に見られるような歪みを回避すべき 

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2024年10月01日

Juve Patent プラットフォームに掲載された、メリーランド州拠点の Unified Patents による PAE や不実施主体に関する最近の広告記事には、シズベルなどに関する誤った記述が掲載されていました。このような内容に対しては反論すべき時です 

文責:Joff Wild 

言葉には力があります。  

どの言葉を使い、どのように用いるかを慎重に考えることに時間をかけることは、説得力のあるストーリーや主張になるか、それとも簡単に無視されるかの違いを生みます。このことを誰よりもよく知っているのが、弁護士とジャーナリストです。  

どちらの職業においても、適切な言葉を選ぶ力は貴重なスキルです。そしてそのスキルは、慎重に用いる必要があります。それを怠ると注目を集めることはあっても、現実を歪め、誤った印象を与える危険性があります。それは特定の意図に沿ったものであっても、公共の利益にはなりません。     

このような理由から、Unified Patents の Jess Marks 氏がシズベルをパテントアサーションエンティティ(PAE)と誤って表現していたスポンサー記事( 6 月に JUVE Patent に掲載)を読んで、非常に残念に思いました。「この記事で使われている『パテントアサーションエンティティ』という用語は、いわゆるパテントトロールと呼ばれる企業、つまり、他社が特許を侵害していると主張し、ライセンス料を得ることを目的に特許資産を取得・主張する営利企業を指すものです」と Marks 氏は記しています。  

この記事はシズベルを誤って伝えているだけでなく、パテントプールが技術市場にもたらしている価値ある貢献や、プールを通じて自社の特許をライセンス提供する革新的な企業の増加という現実を貶めるものです。   

明確にするために説明しておくと、シズベルの主たる事業は、Marks 氏が述べているような「特許資産を取得・主張して事業会社から料金を得ること」ではありません。シズベルの主な事業は、パテントプールの設立と運営です。当社の活動内容と、収益の大半をどのように得ているかを少しでもご覧いただければ、この点はすぐにご理解いただけるはずです。  

現在、モバイル、低消費電力広域通信網(LPWAN)、Wi-Fi、音声・映像コーディング、デジタルテレビ放送(DVB)を対象とした 14 件のライセンスプログラムを運営しています。すでに終了したものやライフサイクルの終盤にあるレガシープログラムも複数存在します。シズベルは 1982 年の設立以来、ライセンサーであるパートナー企業に対し、数十億ユーロ規模のロイヤリティを還元してきました。  

実際には、世界クラスの技術を創出・実装している何百社ものイノベーティブな企業と連携し、柔軟かつ市場に即したライセンスプログラムを構築しています。これらのプログラムは、複雑な課題を解消し、ビジネスの効率化を実現しながら、最高水準の透明性のもとで運営されています。  

このようなビジネスモデルにより、優れた新製品を、より迅速かつ低価格で消費者に届けることが可能になります。また、イノベータに対して公正な対価を提供し、イノベータがパテントプールから得たロイヤリティをさらなる研究開発へ再投資できるようにしています。すべての関係者にとって利益となるのです。  

シズベルは特許を取得していますが、これは自社のパテントプールに組み込むために、正々堂々と行っています。これにより、ライセンサーとライセンシー双方にとっての「ワンストップショッピング」提案の効率性と実効性が高まります。シズベルが取得しなかったセカンダリマーケット上の特許資産は、Unified Patents のような他の企業が購入できる状態のまま残っています。もちろん、彼らのビジネスモデルが当社と同じとは限りません。 

欧州はパテントトロールに優しい環境ではない 

言葉には力があります。 

Unified Patents は自社ウェブサイト上で、「不実施主体が不適切な特許を主張すること(いわゆるパテントトロール)を抑止する」と述べています。ここで定義されている「トロール」、つまり「不適切な特許を主張する不実施主体」は、Juve の記事に記載されている定義と大きく異なっていることに注目してください。「特許資産を取得し、それを行使することによって、当該特許を侵害しているとされる事業会社から料金を徴収することを業とする営利企業」後者の定義には、特許の品質に関する言及が一切ありません。なぜでしょうか。おそらくそれは、欧州の特許訴訟制度が米国の制度とは大きく異なるためです。  

米国での特許訴訟は、欧州よりもはるかに費用と時間がかかります。また、米国には敗訴者負担制度がありません。これにより、回収できないと分かっている高額な費用をかける余裕や意思のない被告から、低額の和解金を複数回得ることを狙って、品質の低い資産を取得・行使するという行為が可能になるのです。一方で欧州は、敗訴者負担制度、低い訴訟コスト、専門性の高い裁判官、陪審制度の不在、そして迅速な審理進行により、まったく異なる環境となっています。    

Unified Patents の記事のように、「米国型のパテントトロールが欧州で増加している」と主張しながら、米国で用いている定義とは大きく異なる定義を使うのは、不誠実な行為です。定義を変更しているという事実そのものが、米国型の「トロール」は欧州では機能し得ないということを認めているに等しいのです。これは、 以前にも Sisvel Insights 上で述べた点です。 

したがって、米国型の「トロール」によるビジネスモデルが欧州では成り立たないのであれば、トロールを抑止することを目的とした特許訴訟の手続きや運用の改革は不要です。現状の制度で、必要な抑止効果は十分に得られています。もちろん、別の理由で現状を変えたいが、その手段として「トロール」という物語を作り上げようとしているのであれば、それは都合の悪い真実と言えるでしょう。   

不作為の罪 

言葉には力があります。 

時として、何を語るかではなく、何を語らないかが本質を示すことがあります。例えば、Marks は自身の記事の中で、InterDigital が「ライセンス交渉を有利に進めるため、多数の特許の取得を目指しており、最近では 2019 年に Technicolor の特許ライセンス事業を取得した」と主張しています。また、同社はそれ以降、接続技術に関連する複数の特許紛争にも関与してきたと彼女は述べています。しかし、Marks が触れていないのは、InterDigital が実際には 5 年前に Technicolor の研究およびイノベーション(R&I)事業を取得しているという事実です。 当時発表されたプレスリリースには、 以下のように記されています。 

この買収により、InterDigital の研究チームは世界 8 拠点に約 340 名の技術者を擁する体制となり、同社の研究分野は、従来の中核である無線技術にとどまらず、映像、拡張現実、没入型コンテンツ、人工知能などの重要分野にまで拡大しました。また、主要顧客としての Technicolor の制作サービス部門との関係を通じて、InterDigital は新興技術分野のエンドマーケットと直接つながることにも成功しています。 

InterDigital のビジネスの中核にある R&I 要素を省略することで、同社の実態が誤って伝わり、フランスをはじめとする各国に有数の研究施設を持つイノベータであるという事実が無視されてしまいます。「米国型の『トロール』が欧州に増えている」という前提のもとに書かれた記事から、なぜこのような情報が意図的に省かれたのか、ご自身でご判断ください。  

米国以外 

言葉は重要 

Unified Patents の本社はメリーランド州 Chevy Chase にあります。 同社の Web サイトには、 シリコンバレーのオフィスも記載されています。一方で、欧州に関する住所は記載されていません。  

シズベルは、Unified Patents が独自の方針に従い、顧客にサービスを提供する自由を有していることを認めています。しかしながら、欧州を拠点とする企業として、この地域での特許に関する議論は、情報を部分的にではなく、できる限り透明性をもって提供することでこそ健全に進むと考えています。現実を歪めたり、都合の悪い事実を省略したりすることも、あってはなりません。  

過去 15 年間、米国の資金力のある大企業によって支配されてきた有害な特許論争を、欧州に持ち込むことは避けるべきです。欧州の権利者と、その発明を実装する技術導入企業、そして広く公共の利益は、そうした状況よりも遥かに健全な環境に値します。   

私的な見解として、長年編集者を務めてきた立場から言えば、Juve に掲載された Unified Patents の記事が「スポンサー記事」であり、社内記者が執筆する記事とは性質が異なることは理解しています。しかし、少なくとも一定水準の編集上の精査は、一般公開前に行われるべきだったのではないかと考えざるを得ません。他のメディアはそれを行っています。Juve もそうあるべきです。 

Joff Wild は、シズベルにおけるコンテンツおよび戦略的コミュニケーションの責任者です。  

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