SEP 規制を超えて ― 注目すべき EU の 3 つの政策

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2024年5月30日

パテントプールおよび標準化に関連する立法提案の最新動向、さらに WTO における中国との訴訟差し止め命令に関する紛争の進展について

文責:Vincent Angwenyi

この 1 年以上、特許業界は EU の物議を醸す標準必須特許(SEP)規制の進展に強い関心を寄せてきました。これは当然のことです。しかし、SEP 関係者にとって注視すべき欧州の政策課題は、他にもいくつか存在します。本記事では、そうした課題の中から 3 つを取り上げ、その現状をご紹介します。

その前に、SEP 規制の現状について簡単に説明します。本法案は現在、EU 理事会に提出されており、同理事会が「全体方針」を採択する段階にあります。

最初のステップとしては、現在議長国であるベルギー(7 月にハンガリーへ交代予定)が、当該提案を検討するための関連作業部会を招集することになります。その時点で、SEP 関連案件は理事会の 知財作業部会の議題となります。これはまだ実施されていません。したがって、今後の進展時期は依然として不透明です。

ここからは、シズベルの政策チームが注視している EU のその他 3 つの課題についてご紹介します。

  • 欧州委員会競争総局(DG COMP)による見直しが行われている技術移転一括適用免除に関する規則(TTBER)、

  • 欧州委員会域内市場・産業総局(DG GROW)の意見募集の対象となっている欧州標準化規則、

  • そして、中国との間で WTO において争われている訴訟差し止め命令に関する紛争です。

技術移転一括適用免除に関する規則(TTBER)

2023 年、欧州委員会競争総局(DG COMP)は TTBER およびそれに関連するガイドラインについての公開協議を実施しました。この規則は、特にガイドラインの中でパテントプールに関するセーフハーバー条項が明記されている点で、非常に重要です。シズベルは、これらの条項が法的な明確性を確保する上で、明確かつ有効であると考えています。

TTBER は 2026 年 4 月 30 日に失効予定であるため、DG COMP はこのまま失効させるか、延長するか、または改訂するかを決定する必要があります。

公開協議を受けて、欧州委員会競争総局(DG COMP)は、 2023 年 12 月 6 日にオンラインワークショップを開催しました。これは、技術移転一括適用免除に関する規則(TTBER)および技術移転ガイドライン(TTGL)の運用実態について、特に公開協議で注目を集めた規定の側面に焦点を当て、さらなる情報を収集するためのものです。

TTBER に関する協議の中で、いくつかの重要な懸念が浮上しています。

まず、欧州委員会競争総局は、ライセンス交渉グループ(LNG)に関する具体的なガイダンスを技術移転規則に追加すべきかどうかを検討しています。シズベルは意見書の中で、LNG がライセンス取得の意思がない実施者間の協調行動を助長し、競争を歪めるおそれがある点、ひいてはホールドアウトの長期化を可能にするカルテル的行為に繋がりかねない点について、重大な懸念を表明しました。シズベル社長の Mattia Fogliacco は最近、 LNG に関する記事を Sisvel Insights に寄稿しました

同様の議論を経て、DG COMP は 2023 年に発表した水平協定に関するガイダンスにおいて、LNG の概念を除外する決定を下しました。今回も同様の慎重な姿勢が取られることが期待されます。

2 つ目の、より広範な懸念は、欧州委員会が TTGL におけるパテントプール向けの既存ガイダンスを考慮しているかどうか、そして SEP 規制案がこれとどの程度矛盾しているかという点です。TTBER および TTGL は、技術プールに対して、プールされた技術のライセンスの調整方法について明確な指針を示してきましたが、提案されている SEP 規制は、特に重複するガイドラインやプロセスを規定している点で、これらと矛盾しているように見受けられます。

2023 年第 2 四半期に実施された公開協議への回答と、DG COMP によるフィードバックの要約は、 こちら および こちらをご覧ください。欧州委員会による採択は 2024 年第 4 四半期に予定されています。

欧州標準化規則

5 月初旬、域内市場・産業・起業・中小企業総局(DG GROW)は、欧州標準化規則に関する 意見募集 を開始しました。これは 2024 年 7 月 25 日まで実施される予定です。この意見募集の目的は、本規則が欧州標準化システムの基盤として引き続き適切かどうかを評価することにあります。

本規則は、無線通信からメディアコーディングに至るまでの重要技術分野において、欧州の標準化機関がグローバルな規格策定を主導する役割を担っていることから、SEP 関係者にとって注視すべき重要な内容です。

すでに 26 件の回答が提出されており、意見提出への関心の高さがうかがえます。7 月に意見提出が締め切られた後、提起された課題のいずれかが特許ライセンスのエコシステムに直接的または間接的な影響を与えるかどうかが明らかになる見通しです。

EU 対中国の WTO 係争案件 ― 知的財産権の執行をめぐって

特許の世界に直接関係する EU の 3 つ目の政策課題は、中国による訴訟差し止め命令の運用に関する WTO への提訴です。本件を 2022 年 2 月に提起した際、EU は次のように述べました。 プレスリリース

中国は、EU 企業が有する主要技術(3G、4G、5G など)に関する権利を、中国の携帯電話メーカーなどによって不正に、または適切な補償が行われずに使用された場合でも、それを保護することを著しく制限しています。中国国外で訴訟を起こした特許権者は、中国国内で多額の罰金を科されることが多く、そのため市場価格を下回るライセンス料での和解を余儀なくされるという圧力を受けています。

WTO の紛争解決機関は、2023 年 3 月に本件のパネル委員を任命しました。それ以降、2 回の詳細な審理が行われ、当事者はパネルからの数百項目の質問に書面で回答しました。EU は、本件における提出書類を 一般公開しています

本件は、世界的な訴訟差し止め命令に関する救済措置に影響を及ぼすだけでなく、EU が本件で取っている立場が EU の SEP 規則の内容とやや齟齬している点でも注目に値します。例えば、3 月 6 日の第 2 回実質審理において、EU の代表団は次のように口頭陳述を締めくくりました。

EU は、本件の重要性について 2 点強調したいと考えています。第一に、SEP の重要性です。これは多くの産業分野で経済的影響が大きく、知的財産保護の主要領域であり、デジタル社会においてその重要性はさらに高まっています。第二に、本件は TRIPS 協定の実効性に関わるものであり、この協定は SEP 権者およびすべての WTO 加盟国の利益のために誠実な履行が求められています。

EU が SEP 所有者の執行権の行使を擁護しているこの事案において、デジタル社会における SEP の役割が認識されていることは、欧州委員会が最近、SEP をデジタルトランスフォーメーションの障害として描いている点と対照的です。TRIPS 協定に関して、4iP Council により昨年 7 月に発表された 研究論文 では、SEP 規則の一部の内容が、特許訴訟における裁判へのアクセスを扱う TRIPS 協定第 21 条および第 43 条と抵触する可能性があると指摘されています。

2023 年 11 月の時点で、WTO パネルは、最終報告書の当事者への送付は早くても 2024 年後半になると見込んでおり、その後、3 つの公用語への翻訳が完了次第、一般公開される予定です。

Vincent Angwenyi は、ハンブルクを拠点とするシズベルのシニア知的財産顧問です。

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