米国における FRAND の新しい局面

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2024年2月05日

テキサス州東部地区で最近判決が下された訴訟の裁判官と陪審員は、米国における SEP 紛争の見解が変わりつつあることを示す新たな証拠を提示しました。シズベルの David Muus の解説

1 月 26 日(金)、米連邦地裁(テキサス州東部地区)の Rodney Gilstrap 判事は、G+ Communications 対 Samsung 訴訟(事件番号 2:22-CV-00078)に判決を下しました。6,750 万ドルの損害賠償金、訴訟費用、ランニングロイヤリティ料が上乗せされるため、被告の責任総額は 9 桁に達する可能性があります。 

しかし、この訴訟が注目に値する理由はこれだけではありません。2024 年 1 月 22 日の Gilstrap 判事の意見をはじめとする今回の判決により、米国における FRAND 原則の新たな側面が浮き彫りとなり、ごく最近のこととはいえ、今後において判例が増えていくと考えられます。

FRAND 交渉とそのプロセス

欧州では FRAND は主に競争法に基づく概念ですが、米国では主に契約法に基づく概念です。米国における FRAND 原則の施行は、標準化団体(SSO)と、標準化が取り組むべき問題を解決するために技術を提供することで標準化に参加する企業との間の契約が中心となっています。通常、この契約には知的財産権に関する方針が含まれており、参加者は、一定の条件の下で自社の特許のライセンスを提供する意思があることを表明します。  

セルラー規格の場合、3GPP の ETSI が主要な SSO です。ETSI の知的財産権方針には、参加企業に対し、規格に必須となる可能性のある特許、つまり、規格に貢献する技術を対象とする特許を、公正かつ合理的で非差別的な条件、要するに FRAND であるライセンスの下で利用できるようにするかどうかについて、取り消し不能な宣言を行うことが要求されています。  

FRAND が実際に何を意味するかは、多くの要因に左右されますが、決定的に重要なのは、合意形成のプロセスと同様に料率として言及されていることです。簡単に言えば、FRAND は実施者と発明者の間の交渉です。  

これまでのところ、米国のドクトリンは「非差別的」な部分を中心テーマとして、FRAND 料率の交渉の側面に焦点を当ててきました。その結果、裁判所は、同等のケースにどの料率が適用されているかを確認するために、同等の契約を調査してきました。それでも、統計に基づく個別のプロセスで公正かつ合理的な料率の算出が可能かどうかを明確にしようとする動きもあります(例:TCL 対 Ericsson)。この統計アプローチは「トップダウン方式」と呼ばれています。 

米国のアプローチは、欧州大陸のアプローチとは異なります(ロンドンのアプローチもまた異なります)。米国の制度が損害の判断に重点を置いているのに対し、欧州大陸部の裁判所は差止命令(基本的には製品の販売禁止)が正当化されるかどうかを判断します。  

欧州の法学は、公正な競争と個人の権利の尊重のバランスを優先しています。これは、損害から誠意ある行動、別の言い方をすれば、当事者が FRAND 原則の下での交渉という適切なプロセスに純粋に関与したかどうかという点に焦点を移したものです。  

このようなアプローチでは、規格の実施者がライセンスを求める義務を果たせば、特許権者からの独占権の主張に直面することはないということになります。特許権者側としては、合理的な(FRAND 交渉による)料率を提示し、同様の実施者にも同等の条件を提示しなければなりません。実施者は、このライセンスを積極的に求め、不当に遅れることなく同意しなければなりません。これは、しばしば FRAND 交渉の「双方向」と表現されます。最近まで、FRAND のこの部分は、SEP 訴訟に対する米国のアプローチにおいて重要な役割を担っていませんでした。しかし、それは変わり始めています。  

言ったことを実行しない

私が初めて FRAND 契約が米国の SEP 訴訟で中心テーマとして交渉されていることを経験したのは、デラウェア州地方裁判所でシズベルの子会社が関与していた、3G Licensing 対 HTC 訴訟でした。ここで陪審は、HTC が 3GL の特許を故意に侵害したと認定し、FRAND 契約を交渉しないという被告の意図的な決定を反映した損害賠償を認めました。  今回の G+ Communications 対 Samsung の判決では、さらに踏み込み、契約前の段階に着目する米国の新たな FRAND 原則を重視するものとなりました。裁判所は、G+ Communication の FRAND コミットメントは、フランス法の適用を受ける契約の一部である ETSI の知的財産権原則に従ったものであると判断しました。そこから、裁判所はいくつかの興味深い結論を導き出しました: 

  1. 一方の当事者が FRAND ライセンスについて誠実に交渉していない場合、相手方当事者は弁護士費用および訴訟費用を請求できます。「採用された規格に特許が寄与している場合(当該特許は標準必須特許となる)、当該の特許ライセンスに関する交渉において、交渉当事者(特許権者または採用された規格の実施者)のいずれかが誠実に交渉を行わず、その結果、「公正、合理的、非差別的」なライセンス供与が妨げられた場合、誠実に行動しなかった当事者は、相手方当事者に対して、弁護士費用や訴訟費用など(ただし、これらに限定されない)、当該の違反から生じる合理的な損害の責任を有します」

  2. 一方の当事者が FRAND-交渉プロセスに積極的に参加していない場合、他方の当事者の参加義務は一時停止されます。「ただし、FRAND 義務を負う特許のライセンスの交渉において、特許権者または採用された規格の実施者のいずれかが誠実に行動せず、それによってライセンスが供与されるのを妨げた場合、相手方の交渉継続義務は一時停止されます。これは、FRAND 義務の負担を特許から取り除くものではなく、誠実に行動する当事者が、それを怠った当事者と交渉を続ける義務を回避するものです。不誠実な行為者が不誠実な行為をやめ、誠実に行動するようになれば、誠意ある交渉も再開されなければなりません。」

「取りにおいでよ」のコスト

米国の SEP 訴訟において料率と損害賠償を重視する従来の慣行は、実施者による遅延戦術を支援していると言われてきました。結局のところ、ギリギリの最後の瞬間にロイヤリティを支払うことが悪い結果にならないのであれば、なぜロイヤリティを早く支払う必要があるのでしょうか。  

プロセスが長引けば長引くほど、特許権者が破綻したり、あきらめたりする可能性が高まります。その理由はさまざまで、高額な弁護士を雇うだけの資金がない、闘い続けられるだけの人材がいない、あるいは単に闘う意志がなくなってしまった、などです。発明者が控えめなタイプであればあるほど、こうしたことが起こる可能性は高くなります。実施者にとってこれは完全な勝利です。 

特許権者が空っぽの財布で公正な補償を熱心に探している一方で、実施者は係争中の技術で稼いだ資金をすべてしっかりと懐に入れています。最後の瞬間までライセンスの必要性を否定する(あるいはライセンスが欲しいふりをする)ことは、判決でも交渉でも同じ契約が得られるとわかっているのですから、賢明な商業的判断です。  

この戦略は「効率的侵害」と呼ばれています。しかし、この言葉は、製品が存在する理由を作り出した発明者の権利を否定する不当性を正しく捉えていません。不誠実な者にとって、「取りにおいでよ 」戦略は、特に裕福で強力な企業が展開する場合、しばしば成功を収めてきました。  

今回の G + Communications 対 Samsungの判決により、このような発明者いじめの動きがわずかならも阻止されることになります。この判決では、実施者は公正で妥当なライセンスの合意を保留する戦略を再考するのが得策であることが強く示唆されています。  

G + Communications 対 Samsung 訴訟における被告の責任は、過去の侵害に対する 6,750 万ドルの支払判決だけでなく、それ以上の判決を受ける可能性もあるということです。一つは、今回の判決により、Samsung が G+ の費用を負担する可能性が残されたことです。交渉に応じなかった側が、相手側の訴訟費用を負担することになるのは、公平なことのように思えます。  

しかし、それだけではありませんでした。Law360 のレポートによると、陪審は被告に対し、2030 年(訴訟中の 2 つの特許のうち 1 つが失効する)までは、販売された製品 1 つにつき 1.50 ドルを支払い、2030 年から 2036 年後半までは、販売された関連製品 1 つにつき 0.50 ドルを支払い続けることも命じたのです。  

現在、米国において Samsung は年間約 2400 万台の 5G 製品を販売していると推定されています。5G の売上は時間の経過とともに増加し、年間 3,000 万ドル以上に達するはずですが、2024 ~ 2037 年の現在の数字を採用するだけでも、被告には総額 3 億ドルをはるかに超える請求が行われる可能性があり、さらに G+ Communication の訴訟費用も支払わなければなりません。  

私は、G+ Communications が、FRAND の交渉として、あまり期待できない数字を受け入れたのではないかと疑っています。突然、米国における発明家いじめは、以前ほど効率的ではなくなったようです。 

David Muus は、バルセロナを拠点とするシズベルのライセンスプログラム責任者です。

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