Ericsson に対する英国の判決はホールドアウトを容認することに

カテゴリ
ライセンスに関する見解
日付
2025年3月25日

控訴裁判所「ホールドアウトの恩恵はあってはならない」。しかし、それがまさに起きている 

文責:Matteo Sabattini 

2 月 28 日、英国控訴裁判所は、Ericsson による SEP ライセンサーの義務違反を指摘する驚くべき判決を下しました。それは、Lenovo が英国の裁判所で裁定された FRAND 条件のグローバルライセンスの受け入れを約束したにもかかわらず、Ericsson が複数の管轄区域で当該の中国企業に対する差し止め命令を請求したことに対するものでした。

Lenovo は英国の裁判所に仲裁を求めていました。Ericsson は特許権者であると同時に、北米や欧州での訴訟に関わる紛争の原告でもあり、これまで一度もそうしたことはありませんでした。  

判決の数日後、控訴裁判所が定めた条件での暫定ライセンスの締結を当該のスウェーデン企業は拒否したため、同社は「Unwilling Licensor(ライセンス供与の意思がない)」認定されることになりました。 

しかし、このような事例が実際に起きてわかったことは、実施者が規則に従わないと、SEP 所有者はどうしようもない状況に陥るということでした。この判決が覆されない場合(Ericsson が英国最高裁判所に上訴中)、そのような行動がこれまで以上に一般的になるのかが注目されます。 

「ホールドアウトの典型例」 

Lenovo は、2008 年からセルラー標準を実装するデバイスを製造および販売しています。Ericsson は 16 年以上の間、SEP のライセンス交渉を試みてきましたが、無駄になりました。  

Motorola Mobility が締結した 2011 年ライセンス(Lenovo は 3 年後に取得)以外、Lenovo は「Ericsson からライセンスを取得したことはなく、Ericsson の SEP を利用したことに対して支払いも行っていない」と控訴裁判所は言明しています。 

16 年は長い時間です。これは Lenovo が 2009 年に販売を開始した 3 G 携帯電話 OPhone の写真です。 

Lenovo OPhone

SEP 市場における誠意ある取引相手は、16 年間にわたる真摯な交渉を経ても合意に至らないことは決してありません。Ericsson は、この状況は、Lenovo があらゆる手段を講じてライセンス取得を回避しようとしてきた、継続的なホールドアウト戦略の結果であると主張しています。 

「容認されるべきではない」 

控訴裁判所は、Lenovo が 16 年間にわたり意図的にホールドアウトを続けてきたという Ericsson の主張が正しいとすれば、と前置きしたうえで「(そのような)行為は容認されるべきではない」と述べました。しかし、Lenovo は 2023 年に暫定ライセンスを締結し、最終的には英国裁判所が定めた FRAND 条件を清算することを申し出たため、「ホールドアウトに関して Lenovo を非難することはできなくなった」(強調は筆者による後付け)、と判決文が続きました。 

したがって、時計がリセットされ、2023 年から始まることになります。Ericsson はリソースの豊富な大企業であったことが幸運でした。これが他の特許権者(個人、中小企業など)なら、ライセンス契約が前進しなくてもこれほどの長い間持ちこたえることができたでしょうか? 

特許は期間限定の権利であり、一般には出願日から 20 年間有効です。2013 年の報告書によれば、英国の特許の大半は、登録までに 2 年半から 4 年の期間を要しています。特許の発行まで最大 4 年かかり、ホールドアウトの対応にさらに 16 年要すると言われたら、期間限定の基本的保証を謳う特許の権利はイノベータにとってほとんど意味を成さなくなります。   

英国の法律では、土地や財産を使用および管理する者は、登録名義人の許可がない場合でも、わずか 10 ~ 12 年後には所有権の時効取得の原則に基づいて自らの所有権を主張できるようになります。意図的なホールドアウト戦略による知的財産権の侵害は、どの時点で事実上の収用に変わるのでしょうか? 

基本的な不均整 

控訴裁判所は、ホールドアップとホールドアウトはどちらも悪質で控えるべきと言明しているにもかかわらず、この 16 年間のこう着状態の中で立場上の力を少しでも行使しようとする Ericsson に厳しい目を向けています。ライセンス交渉は特許権者が有利で不均衡であるとよく言われます。しかし、これは実情と懸け離れています。実際のところ、SEP に関してはそのような事実はありません。 

他の多くの市場とは異なり、規格の実施者は、どのようなことへの支払いに関しても、同意する前から当該のテクノロジーを使用することができてしまうからです。支払額の交渉をしながら、当該製品の使用による恩恵を受け続けます。その一方で、SEP 界には「立場上の力」がほぼ存在しないことを実施者はわかっています。有利な条件が得られるまで企業がホールドアウトできてしまうのには、こうした背景があるのです。  

法廷地あさりを促す 

10 年以上もホールドアウトしていた企業が、なぜ突然暫定ライセンスを締結し、英国の裁判所で裁定された FRAND 条件を受け入れるのでしょうか? 

Arnold 判事は、英国の裁判所にグローバル FRAND 料率を設定してもらいたいと考える実施者が増えていることが紛争の背景にあると指摘し、「実施者の意識がこのように変化したのは、特許裁判所で裁定された FRAND 条件の方が SEP 所有者の提示条件よりも実施者の提供条件に非常に近かったことが、理由として挙げられるかもしれません」とコメントしています。 

今回の直近の判決では、英国の裁判所は、一方の当事者からの要請に応じて FRAND 料率を設定することに同意しただけでなく、他の管轄区域での特許の執行手続を妨げる判決も下しました。これにより、侵害者による法廷地あさりがさらに促されることになります。そして、積極的に紛争を英国(および中国など、裁判所が同様の立場をとっている地域)に持ち込もうとする動きが生まれる可能性があります。 

知的財産権の保有者は、特許を保有する管轄区域や、侵害者(疑いも含む)が販売や製造を行なっている管轄区域で侵害訴訟を自由に提起できるようにならなければなりません。そのまま放っておくと、侵害者による法廷地あさりで、国内の特許権もグローバルな知的財産権制度も損なうことになるでしょう。  

ホールドアウトや法廷地あさりにより、ロイヤリティを裁定するタイミングと場所の両方を侵害者が効果的に選択できるようになります。これは、フリーライダーが、最終的に支払うべき金額を裁定する国の裁判所を完全にコントロールしながら、好きなだけ他者のテクノロジーを享受できるチャンスを作ってしまうことになります。これでは、イノベーションに利益をもたらしません。 

不正競争 

Lenovo は典型的なホールドアウト行為を行う、ライセンス取得の意思がない実施者として比類のないライセンシーであると Ericsson は強く主張しましたが、控訴裁判所はこの主張を認めませんでした。裁判では、交渉の失敗が長期化したことについて Lenovo が Ericsson を非難しました。高等裁判所は以前、Lenovo の暫定ライセンス申請を却下し、Ericsson に有利な判決を下していたものの、2023 年以前に起こったことに関しては責任を追及しようとはしませんでした。   

責任の所在を示す手がかりの一つは、当時 Ericsson からライセンスを取得した企業の一覧です。高等裁判所の判決で名指しされたのは、次の 4 社です:Apple、Samsung、Xiaomi、OPPO。  

これらは、簡単に負ける企業ではありません。優秀な知的財産ライセンスチームと、優位性があれば訴訟を起こせる十分なリソースを兼ね備えたノウハウのある企業です。自分たちの仲間に競争上の不利が生じると思われるような条件は受け入れないでしょう。しかし、Ericsson にロイヤリティを支払わないと、競争の激しい携帯電話市場で自分たちも商業的成功を収めることができなくなります。 

ホールドアウトは特許権者に損失を与えます。しかし、損失を被るのは特許権者だけでなく、ルールを守る実施者も同様なのです。公正な市場競争を歪めることになります。  

フリーライダーが何年もホールドアウトできないようにし、他の競合他社と同じように取引させる必要があります。ETSI IPR 政策では、FRAND コミットメントには自発的なライセンシーが必要であること、つまりタンゴを踊るには 2 人の協力が必要であることが明確にされています。公平な競争の場を確保する唯一の方法は、協力しないライセンシーから FRAND 契約の恩恵を剥奪することです。つまり、この方針を追求する企業は、差止命令のリスクを負い、最終的にはより多くの費用を支払うことになるということです。 

それでも、英国の裁判所は、ホールドアウトに対し寛大な金銭的条件を提示するといった逆の方向に向かうつもりのようです。 

ホールドアウトの支払い 

「Lenovo が過去に抵抗したことで英国の裁判所から報いを受けることはない」と、控訴裁判所は宣言しています。判決で想定される金銭的条件は、この状況とは異なることを示唆しています。  

Ericsson は 2008 年まで遡る過去のロイヤルティに対して「現実的な利息」を期待できると、控訴院裁判官の Arnold 氏は記しています。また、裁判所は、InterDigital 対 Lenovo 訴訟で支持された年 4% の四半期複利金利について「実施者がホールドアウトすることで利益を得ることを防ぐのに役立つ」と指摘しました。 

しかし、本当にフリーライドを抑制するには、英国政府が長期借入金に支払っている金利に近い金利ではなく、懲罰的な金利が必要になるでしょう。FRAND 専門家の Eric Stasik 氏が指摘するように、ドイツの法律では、消費者が関与していない取引のデフォルト利息は、基本利率を 9% 上回っています。これは、ホールドアウトの強力な阻害要因となります。 

InterDigital 対 Lenovo 訴訟における 4% という利率はどのようにして算出されたのでしょうか?これは、両当事者が締結したライセンス契約に基づき、遅延支払いに対する利息として定められたものです。裁判所は、両当事者が締結した類似のライセンス契約において、支払遅延に対する「最低利率は 3% で、一般的な利率は 10%」であると指摘しました。 

より公平なアプローチになると、一方または両方の企業の資本コストに基づいた利率が用いられます。この数値は、企業が投資に対して獲得するとされる最低利益率を表しているため、ロイヤリティの支払遅延による経済的影響をより正確に反映しています。InterDigital 対 Lenovo 訴訟において、高等裁判所は InterDigital の過去 5~10 年間の加重平均資本コスト(WACC)が 10.5% であったこと、そしてこの数値が InterDigital の業界では比較的典型的なものであることを示す証拠を審理しました。  

InterDigital 対 Lenovo 訴訟の控訴裁判所での弁論において、Lenovo は過去の売上高に対する利息は一切認められるべきではないと主張しました。  

冷静な対応 

控訴裁判所の判決で鍵となったのは、「合理的な SEP 所有者であれば誰でも、すぐにでも支払ってもらいたいと思うのではないか」という裁判所の見解でした。  

Ericsson は、中間支払いはそれほど有用ではないと異議を申し立てました。最終裁定では将来調整することが条件となり、GAAP 原則では収益として適切に認識できないからです。  

取引に関して別の見方をすると、暫定ライセンスを締結した場合、Ericsson は他の裁判所からの差し止め命令を実質的に撤回し、Lenovo が「ライセンス取得の意思がない実施者」ではなかったという考えに事実上同意することになります。言い換えれば、無駄に多くをあきらめることになります。  

裁判所はこの議論を却下し、株式公開企業として運営することの財務的実態を根本的にはき違えてしまいました。  

Ericsson は合理的行動者なのでしょうか?同社は株主への説明責任を負う 2,770 億ドル規模の企業です。控訴裁判所の判決を受けて Lenovo との暫定ライセンス契約を拒否したのは大きな決断でした。当該のスウェーデン企業がこのような選択をしたということは、控訴裁判所の判決がそれだけ逸脱したものだったことを物語っているのです。 

Matteo Sabattini は、シズベルの行政担当エグゼクティブアドバイザーです

本記事は、個人として執筆されたものです。この記事に記載された見解は執筆者自身のものであり、必ずしもシズベルの見解を反映するものではありません。本内容は情報提供のみを目的としており、法的助言として解釈されるべきではありません。

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